「恋って、認めて。先生」
琉生の言葉に、純菜もウンウンとうなずく。
「私も思った!比奈守君、ちょっと困ってたよね」
「ただでさえ好きな女の前ではカッコつけたい年頃なのに、両親にあんなこと言われたんじゃ、比奈守君も立つ瀬ないよなぁ」
「飛星のこと好きなの、親にバレてたよね。比奈守君ってクールキャラなんじゃなかった?」
純菜の疑問はもっともだった。実際私は純菜と琉生にそう話していた。初めて彼を見た時、そっけなくて取っつきにくそうだし、何を考えているのか分からない子だと思った。
「うん。正直私も、最初はそう思ってたよ。実際、第一印象は『苦手な感じ』だったし……」
比奈守君のことを思い出しながら、私は言った。
「たしかに今でもそっけないというか、冷めた顔してることは多いけど、話してるとそうでもないのかな?って思う。なんて言うんだろ、こう、話す言葉に熱があるというか、行動ひとつひとつに深い意味があるというか……」
比奈守君は、今まで本気で人を好きになったことはないと言っていた。とてもそうとは思えないくらい、優しくてあたたかい目をする子だなと、私は感じた。ひいき目が入ってるのかもしれないけど。
「それってさ、飛星の影響かもな」
「私の?」
「人を好きになるとさ、今までの自分じゃない別の自分が出てくるもんじゃん?飛星にも経験あるだろ?おれっちだって経験ある。比奈守君もそうなんじゃないの?なにせ、育ての親に見透かされるくらいだ。飛星への気持ち、本気だと思うぜ?」
琉生の言う通りだ。私も昔、人を好きになって自分が変わるのを感じた。それまでの自分と地続きなはずなのに、新しい芽が生えたみたいに知らない自分が顔を出す。まるで、元からそこにいたかのように。
「いいなぁ。そういう感覚、私はまだ未経験」
アイスを食べ終え、そのカップを指先でもてあそびながら純菜はつぶやく。
「今まで彼氏居たことはあったけど、未知の自分を感じるほど感情をかき立てられたことってないし。琉生と飛星のこと、ちょっとうらやましいよ。そういうの、本当の恋をしたことある人にしか分からないんだろうし」
「純菜もそのうち運命の相手に出会えるって。な?飛星!」
「もちろんだよっ!」
話を振られ、私はうなずく。私は自分の恋愛には消極的だけど、友達の恋はうまくいってほしいし幸せになってほしいと願う矛盾した人間だ。純菜は笑い、私に言った。
「いつかその日が来るのを楽しみにしてるけど、飛星と琉生とこういう時間を持てれば私は満足かな。ただ……。飛星はどう?」