「恋って、認めて。先生」

「私も、二人とこうやって過ごすだけで幸せだよ」
「ありがとう。それも飛星の本心だって分かってるけど、比奈守君のことが好きなら、無理に気持ち抑えない方がいいんじゃないかな」

 それまでとは少し違う真面目な顔で純菜は言った。

「教師っていう立場とか、比奈守君より年上ってこととか、前の失恋とか、色々気になるのはよく分かるよ。分かるけど、せっかく見つけた恋なら大切にしてほしいなって、私は思う」
「純菜……」
「ごめんね、なんかマジになっちゃって。飛星はいつも私の幸せを考えてくれてる。そんな子が無理してるの、なんか見てられなくてさ」
「ううん……」
「私も、好きな人が出来た時は全力で頑張るからさ。飛星も、理屈で考えるのやめてみたら、違うものが見えると思うよ」
「そーそー!おれっちも同感!禁断の恋だろうが何だろうが、卒業までバレなきゃ問題ないんだし」

 琉生がテンション高く加勢する。

「教師と生徒の関係で結婚したってカップルも世の中には数え切れないほどいるんだからな!何もしないうちに引き下がるのはもったいないぜ」
「だね。今すぐは無理でも、これから少しずつ比奈守君のこと知っていって、それからどうするか決めてもいいんだし」

 純菜の励ましが胸にしみた。それと同時に、私は比奈守君のことが大好きなんだなと実感した。


 琉生と純菜は、私のために背中を押してくれる。恋愛するのはもうこりごりだと思っていたけど、素直になるのもありかもしれない。こわがってばかりでは前に進めないのだから……。

 恋愛への恐怖感や男性への不信感はまだ完全には拭えないけど……。


 純菜と琉生が帰った後、しばらく待ってみても比奈守君から連絡は来なかった。頑張ると決めたとたんになんだけど、こっちから連絡するのは気がひける。

「比奈守君からラインしてくれたら、返しやすいのにな」

 スマホを手にベッドに寝転び、独り言をもらす。

 静かな静かな一人の夜。比奈守君の声が聞きたくなって、私はひたすら彼のことを思い出していた。記憶の中の比奈守君。その声が、甘く優しく、私の胸をなでる。

 この状態が一番幸せかもしれない。両想いだけど相手は私の好意を知らなくて、連絡先は知っている。いつ連絡が来てもおかしくない状態で、会えば相手も好意的。

 比奈守君は、私に告白してくれた時、何も望んでないと言ってたけど、こういう感覚のことを言っていたのかもしれない。ただ相手を想うだけで満たされる。私は今まさにそんな状態だ。

 比奈守君とのライン履歴を見て、一人幸せ気分に浸る。この時間は誰にも壊されない。

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