「恋って、認めて。先生」

「飛星。本当にこのまま独り身でいる気?」
「もちろん。恋の仕方なんてもう忘れたよ」

 これは本当だ。今さら恋愛なんて、私には無理。

 二十代ド真ん中を生きる今、『仕事と友情さえあれば人生なんとかなる』というのが私の持論。恋や愛だに気力をさくのはもうごめんだし疲れた。

 私の恋愛歴を知る琉生は、ブスッとした顔でビールを喉に流し込む。

「飛星、もったいないことしてるぞ。若さは永遠じゃないんだからな?今やれることをしとかないと、後々ぜぇったい!後悔するからな!?そうなっても知らないぞー?」
「私は、琉生と純菜と仕事があればそれでいいの。恋なんてもうこりごり」
「まだ、アイツのこと引きずってるのか?」

 『アイツ』とは、私が大学時代に初めて付き合った人のことだ。今思えば、あれが人生の絶頂期。彼を本気で好きになり、一生彼のそばで生きていきたいと願っていた。

 だけど、大学卒業後、互いに価値観が変わっていき、環境の違いからすれ違いが増えていった。それでも私は彼を好きだったのに、彼には他に好きな人が出来てしまった。


 失恋の傷は時間と共に癒えたけど、後に残ったのはどうしようもない虚しさだけ。

 好きだった分だけ傷付く。そんな恋なら、いらない。疲れるだけだし、時間の無駄。今は心底そう思う。

 自分の過去話をしても場がしらけるだけなので、私はあえて話をそらした。

「琉生こそ、最近彼氏とはどうなの?仲良くやってる?」
「ラブラブだよっ。今度のゴールデンウィーク、伊豆旅行に行くからお土産買ってくる」
「ありがとう。楽しんできてね。でもさ、男同士の恋って、人前では手とかつなげないし、寂しくない?」
「それも承知の上で付き合ってるんだから大丈夫!その分、夜に燃え上がるからなっ!!じらされた分、深く愛し合う。それがたまらなく興奮するんだよっ!」

 う……。自分から話を振っておいて何だが、生々しい……。恋愛から遠ざかり過ぎな私にとって、琉生の話は刺激が強すぎたようだ。



 翌日私達の仕事は休みだったので、琉生の飲酒に付き合い、結局その日は朝まで語り明かした。

 昼になると、どちらかともなく寝てしまう。琉生は男だけど、幼なじみの関係だし今さら男女の関係になることなどありえないので、こういう時、よく彼を家に泊めていた。


 いつの間に寝てしまったんだろう。夕方、私は夢のせいで勢いよく目を覚ました。

「なんて夢を見てるんだ、私はっ……!」

 胸がバクバク音を立て、顔も熱い。私は一滴も酒を飲んでいないのに。そう、これも夢のせいだ!

『先生のこと、好きだよ。俺と付き合って?』

 比奈守君に告白され、抱きしめられるというハレンチ極まりない内容の夢を見てしまったのだ。教職という立場にありながら、あるまじき悪夢。

 琉生から生々しい話をたくさん聞かされたせいだ!恋愛しろってしつこく勧められたからだ!そうに違いない!あれは私の願望なんかじゃ、決してないんだからっ!

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