「恋って、認めて。先生」
「あの時はごめんね。うっかり手に触っちゃって……。これからは気をつけるから」
作り笑いでそんなことを言うのが精一杯だった。じゃないと、比奈守君の手のあたたかさにドキドキしているのがバレてしまいそうで……。
比奈守君はそっと私の手を離し、瞳を揺らす。
「嫌じゃなかったですよ。あの日、先生の手に触れたの……」
それって……。
比奈守君の言葉の続きを想像してしまい、耳まで熱くなる。
「緊張して、つい落としただけなんです。缶」
「そうなの?嫌だったのかと思った……」
「先生、それ天然?それとも計算?ううん。天然ですよね。分かってる」
比奈守君は意地悪な感じで微笑した。
「告白した男を相手にその言い草はひどいですよ。嫌だったらメールもラインも電話もしないし、こうして手を触れ合わせたりもしない」
「比奈守君……!?あのっ」
目の前にはこちらを見下ろす比奈守君の顔。どんどん近付いてくる彼から距離を取ろうと後ずさるも、背中はあっけなく外壁についてしまう。
涼しげな瞳はどこか熱っぽく、このまま見つめ合っていたらイケナイ展開になるのが分かった。
比奈守君の体が近付いてきそうになった直前、私は必死に抵抗してみせた。
「わざわざこんな時間まで待ってたなんて、話があったからじゃないの?何だった?聞くよ!?何ならアパートまで来る??」
もう、どうにでもなれという感じだった。アパートには先に仕事を終えた琉生や純菜が到着しているはずなので、これは全然やましいお誘いではない。うん!
しかし、比奈守君はそうは思わなかったのか、私から一歩距離を置き、切なく微笑んだ。
「先生から見て、高校生なんてやっぱりガキなんですかね……。そうやって平気で一人暮らしの部屋に誘うなんて」
「いやっ、あの、そうじゃなくて、えっと……」
もしかして傷付けちゃった?さっきとは違う焦りが体の熱を奪っていく。私はアタフタと言葉を継いだ。
「比奈守君、進路の事で悩んでそうだったから相談相手になりたいと思ったの!余計なお世話かもしれないけど、私、担任だしっ!」
縮んでいるのか開いているのかまるで分からない比奈守君との距離を感じ、私は必死になった。言ってること、メチャクチャかもしれないけど……。
こちらの熱意(?)は伝わったらしい。それまでのやり取りは全て演技でしたみたいな風に微笑し、比奈守君は言った。
「からかってすいません。冗談ですよ」
「じょっ、冗談!?」
「……はい。進路のことで話があって先生を待ってました」