「恋って、認めて。先生」
比奈守君の瞳に光が射した気がした。明るくて、とても眩しい。
「将来の夢、俺にもそのうち見つかるでしょうか?」
明るい声音ながらもどこか複雑そうな面持ちで、比奈守君は言った。
「夢なんてあってもなくても俺には関係ないって思ってましたけど……。先生見てたらそうじゃないなって感じて」
「私……?」
「自分の選んだ場所で全力を尽くせば何かが得られる。今すぐじゃなくても、それは何らかの形で未来に残るんだって思いました」
「そんな、大げさだよ。私も、教師の仕事に充実感覚えたのつい最近の話だし……。学校にいるせいか、今までもどこか大学生気分で教壇に立ってたとこもあるし……」
「先生幼い顔してるから、充分大学生で通りますよ」
「また、からかうー!」
私はわざとむくれてみせる。比奈守君は柔らかく笑った。
「ほら、全然教師っぽくないですよ」
「もう……!」
「先生は、調理師になるのは本当の夢じゃなかったって言ってましたけど、そんなことなかったと思いますよ?」
「そうかな?」
「琉生さんが言ってました。先生の作るご飯はどこの店のより美味しいから、忙しくてもついアパートに足を運びたくなるって」
「琉生が、そんなことを?」
知らなかった。たしかに、夜ご飯は皆に食材を持ってきてもらって私のアパートで作るのが定番になっていたけど……。
比奈守君は言った。
「それって、先生が高校時代に学んだことが身についてるってことじゃないですか。そういうのが大人になっても生かされて、琉生さんや純菜さんとの付き合いを楽しいものにしてる」
そんな風に考えたこと、今までなかった。
「ご飯のことだけじゃなくて、先生といると元気になれる。琉生さんだけじゃなく純菜さんもそう話してたそうですよ。先生の夢は叶わなかったかもしれないけど、先生の高校生活は無駄じゃなかった。そんな先生を見てたら、俺も変わりたいって、そう思ったんです」
くもりのない目で射抜かれて、私の胸は再び熱くなった。
比奈守君の言葉で私は、胸の奥に隠れていた知らない感情を知った。この人にもっと自分を知ってほしい。比奈守君のことをもっと知りたい。彼となら、お互いを高め合う関係になれるのではないか、と……。