「恋って、認めて。先生」
5 熱の糸口は霧雨
告白してしまおうか。過去の恋から抜け出せないままなのは嫌だ。……なんて、こんな風に恋愛に対して前向きな自分にも驚いてしまう。前まで、恋なんか二度としない、人生において無駄なもの、そう強く思っていたのに。
気持ちの変化は、比奈守君の影響?とはいえ、教師なのに生徒に告白なんて……。それに、一度きっぱり断ったのだから、比奈守君はもう私のことを好きではないかもしれないし。
考え込んでいたせいか、私につられるように比奈守君も無口になる。沈黙が心地いい。
静かな通りを歩いていると、小さな公園を見つけた。いつもは何の感慨もなくすーっと通り過ぎてしまうのに、外灯に照らされた花壇の花がとても美しく見え、つい足を止めてしまう。
「先生、花とか好きなんですか?」
「ううん!普段はそういう趣味ないんだけど、なんか今日は見たくなって。何でだろ」
「何ででしょうね?」
その答えを知っていると言いたげな口調で、比奈守君は公園に入っていく。
「寄るの?帰るの遅くなるよ?」
止めようとする私の言葉を聞かず公園の中の自販機に向かった比奈守君は、ペットボトルのミルクココアを買ってこちらに差し出してきた。この季節に販売しているのが珍しいあたたかいドリンク。
「もらっていいの?」
「それで少しはあたたかくなるといいですね」
「手が冷たいの気にして?ありがとう」
ホットココアもあたたかいけど、それ以上に比奈守君の優しさに触れて胸が熱くなった。こんな風に扱われたら、私は……。
「はい、これ」
ココアのお金を返そうとする私の手をグッと押し返し、比奈守君は寂しげな目でこちらを見下ろした。
「察してよ、先生。もう少しだけそばにいたいって印」
「え……?」
「担任の先生じゃない。俺にとって先生は、やっぱり女の人だよ。何よりも大切な……」
「比奈守君……」
突然の告白に、私は硬直してしまう。
「でも、私のことはもう忘れるって……。ラインや電話も、友達としてなのかなって……」
「そのつもりでした。今までの彼女みたいに、すぐ忘れるって。でも、先生は違うみたい」
自販機の前で向かい合ったまま、私と比奈守君は見つめ合う。知らない間に空を覆っていた雨雲から、小さな水滴が降ってきた。
土砂降りにならなくて良かったものの、小雨は長く続き、私達の髪や肌を少しずつ濡らしていく。霧のシャワーを浴びているみたいだった。
比奈守君は熱い指先で私の頬についた雨を何度も拭った。そのたび、距離が近くなる。