「恋って、認めて。先生」

 大切な人の前で素直になるべきーー。
 永田先生の言葉が、何かの呪文のように胸に深く響く。

 告白を断ったばかりの時はトゲトゲしかったけど、永田先生も私の恋をひそかに応援してくれてる。そう思っていいのかな?


 夜になっても、比奈守君からの連絡はとうとう来なかった。

 こっちからラインしようかとも思ったけど、あんな別れ方をした手前、どんなメッセージを送ればいいのか全然分からず、考えているうちに時間は過ぎてしまった。

 昼間、琉生と純菜には風邪で仕事を休んだと伝えておいたので、今夜はさすがに来ないかと思ったら、果物や食材を持ってお見舞いに来てくれた。

「二人とも、今日は帰った方がいいよ!風邪うつしたら仕事に響くし……」
「大丈夫だよ、ちょっとくらい」

 純菜は言い、持ち込んだ食材で手早く味噌雑炊を作ってくれた。その横で、琉生がリンゴをすりおろしてくれる。

「琉生、すりおろし作業だけはやめて!?ヘタしたら指に大ダメージだよ!ピアノ弾けなくなったらまずいよ!」
「おれっちそんなに不器用じゃないって。よし、完成!」

 二人が作ってくれた物を、ありがたくいただいた。味噌雑炊はネギや椎茸、鶏肉の旨味がよく出てとても美味しかった。リンゴの甘酸っぱさも、今の体調には心地いい。

「ごちそうさま。二人とも仕事の後なのにごめんよ?ありがとね」
「いいって。いつもは私達がごちそうしてもらってるんだし、体調悪い時くらい甘えなよ」
「純菜……」

 比奈守君の言っていた通りだ。私の夢は叶わなかったけど、高校時代は無駄ではなかった。希望校ではなかった高校の食物科で出会った純菜。彼女とこんなにも長く付き合うだなんて当時は全く予想していなかったけど、第一志望校に落ちたおかげで純菜と出会えた。

 大切なことに気付かせてくれた比奈守君に、今、むしょうに会いたくなった。でも、そんな勝手なこと、許されないよね?不安定な自分のせいで、私は比奈守君の気持ちを拒絶してしまったのだから……。


 とたんに無口になる私を見てため息をつき、琉生が訊(き)いてきた。

「雨に濡れてまで、昨夜は何してたんだよ。バスで帰ってくるって手段もあっただろ?」
「……途中まで比奈守君と帰ってきたの。あの子、前から私の気持ちに気付いてたみたい。でも、私、やっぱりこわくて……!」

 琉生と純菜に昨夜の出来事をかいつまんで話すと、二人は驚きつつもどこか納得したようにうなずいた。
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