「恋って、認めて。先生」

「そっか……。飛星、比奈守君に気持ち、言えなかったんだね」

 私の背中を優しく叩き、純菜は言った。

「よく頑張ったね。今までの飛星からしたら、すごい前進したと思うよ?」
「そうかな?」
「うん!だって、前の飛星だったら、比奈守君に近寄らせる隙すら見せなかったと思うし」

 うんうん、と、琉生も満足そうにうなずく。

「ちょっと前の飛星が小学生だとしたら、今回の件でようやく中学生にランクアップしたって感じだな!」
「ランクアップどころか、マイナス思考ばっかりになって後退してる気すらするんだけど……。比奈守君との年の差だって、永遠に縮まることはないんだし……」

 自分の言葉に、さらに落ち込む。琉生は呆れたようにため息をついた。

「それがどうしたよ。人間はな、誰しも歳取るんだよ。今赤ん坊でいる子達だって10年後には小学生になるし、今十代の若い奴らだって二十年後には中年になる。比奈守君だってそれは同じなんだよ」
「うん、頭では分かるよ。でも、やっぱり、若さは無敵だと思うよ。それだけで価値がある」
「年齢が若いほど賞賛される風潮が、日本では根強いからな。おれっち達も、知らない間にそう刷り込まれてる。でもな、そんな俗世間的な価値観に従って自分の幸せ逃すなんて、馬鹿げてるぜ、飛星」

 励ますように、琉生は私を見つめた。

「女は特にそういうの気になるよな?メディアでも、男は若い女を好むって当然のように触れ回ってるし、ネットでだって、女性芸能人の加齢について『劣化した』って、年齢重ねた女性に対して心ない言葉を平気で書く人間もたくさんいる。飛星は女だからなおさら、そういうのに敏感になっちゃうんだろうし、時に傷付くこともあったと思う。

 だけど、それは世間の意見だ。世の中の男全員がそう思ってるわけじゃない。比奈守君にはそんなことどうだっていいんだよ!彼は、25歳の大城飛星っていう人間に惚れたんだ。きっかけは一目惚れだったかもしれない。だけど、今はそれだけじゃないはずだ」

 琉生は強く私の手をにぎり、はっきりした声音で言った。

「お前は充分いい女だ。幼なじみの俺が言うんだから間違いない。信じて、自信持てよ。な?純菜!」
「そうだよ、飛星」

 純菜は私の肩をそっと叩く。

「私にとって、飛星は自慢の親友だよ。幸せにならなきゃ許さないから!」

 おどけたように笑う純菜と、それを見守る琉生。二人の心が伝わって、胸が熱く震える。涙が出た。

「ありがとう、二人とも。大好き!」

 鼻水もそのままに、私は甘えるように二人に抱きつく。琉生と純菜は、優しくそれを受け止めてくれた。
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