「恋って、認めて。先生」
私にとって最初の彼氏。別れた時に大きな痛みをくれた人。あの人と別れる前の数ヶ月、全くそういうことがなかった。ううん、元々、スキンシップが少なめな人だった。だからこそ、別れる前に体の関係がなくても変に思わなかった。
比奈守君とのキスに動揺し気持ちが乱されてしまったのも、そういう経験が少ないからだ。彼氏はいたけどそれだけで、私はセックスの経験もたくさんあるわけではないし、むしろ少ない。正直な話、エッチなんて男の人の性欲処理の手段だと思ってた。
「飛星……?」
急に黙り込んでしまった私に、純菜が気遣わしげな視線を送る。
「ごめんごめん!何でもないよ。ちょっと、考えさせられることがあって……」
「もしかして、おれっちの話、いまいち分かってないとか?」
「うん……。体のつながりってそんなに大事かな?正直なこと言うとね、私、今までそういうので気持ちいいと思ったことないから。昔読んだ恋愛コミックとか小説にはそういうのが幸せ〜みたいな描写があって、感情移入はできるんだけど心の底から共感できたかっていうと微妙だった」
「マジで……!?」
そんなに驚くかというほど目を丸くする琉生に、私は恐る恐る尋ねた。
「やっぱりおかしい?」
「おかしいっていうか……。アイツとはしてたんだろ?付き合ってたんだし」
「もちろん!」
アイツとは、私の元カレのこと。初めての相手はあの人だった。
「でも、琉生が言うほど重要なことに思えないよ。そんなにしたいと思わなかったし……」
「飛星……。それ、男が悪いわ」
「え?」
「お前、本当の快感知らないだろ?それ、人生の半分損してるぜ?」
「半分も!?」
「ああ、半分だ!なんてもったいない!」
琉生は気の毒そうに私を見て、わざと大げさに嘆(なげ)くポーズをしてみせた。
「好きな人が出来たら、相手と近付きたい、触れたい、セックスしたいって思うのは自然なんだよ。それで言えば、比奈守君は至極当然な態度。至って健全だ。そういうのがなきゃ、女は心から相手に満足できないんだよ。それくらい、大事なことなんだ」
「そうなんだ……」
とても大切な話をされている。空気でそれは分かるのに、私はどこか別世界の物語を聞かされているような感覚で琉生の話を耳にしていた。一方、純菜は興味深げにあいづちを打っている。
どこか他人事のような感じ。そんな私の気持ちに気付いたのか、琉生はうなりながら質問してきた。
「……そういう反応されると、おれっちも何て説明したらいいか迷うんだけどさ。比奈守君とのキス、嫌じゃなかったんだろ?」
「……うん」
その瞬間が、ついさっきのことのように脳裏によみがえる。比奈守君の熱い唇。切なげな瞳。強くにぎられた両手。思い出すだけで、胸が激しく鳴ってしまう。