「恋って、認めて。先生」
戸惑いを隠せないでいると、永田先生は苦笑した。
「複雑だな。大城先生を困らせたくないのに、惚れ直したよ」
「からかわないで下さいよ」
「けっこう本気なんだけどな〜」
冗談ぽい口調。そこにはもう、ちょっと前の意地悪さはなかった。永田先生の気遣いに安堵する。
私達は、以前のように何気ない話をしながら職員室に向かった。
「そういえば、今日の職員会議の議題、知ってる?」
「はい。今朝、校長先生からお電話いただきました。受験生の保護者に対する接し方についてですよね」
「どうも、それだけじゃないみたいだよ」
「他にも議題が?」
「行ってみたら分かると思う。僕達にとっては耳の痛い話かもしれないから、右から左に聞き流した方がいいよ」
「そうなんですか……?もしかして、先日の抜き打ちテストで採点ミスをしたこと、校長先生に知られてしまったんでしょうか?すぐに直したから問題ないと思っていたんですけど……」
「ははは!そんなミスしてたんだ。言われなきゃ僕も気付かなかったのに」
教師として未熟な自分の言動に心当たりがありすぎてヒヤッとした。でも、永田先生の言っているのはそういうことではなかった。
「大丈夫。そのことじゃないよ。でも、大城先生は真面目だから、言われたこと全部そのまま受け止めちゃいそうで心配」
永田先生の心配をありがたく思う。
私がその言葉の意味を正しく理解したのは放課後の職員会議になってからだった。
永田先生との雑談もそこそこに、職員室を出る。時折廊下ですれ違う生徒達に朝の挨拶をしながら歩いていると、C組の教室から女子生徒の声が聞こえた。
「告白しなよ〜!」
「そうだよ。比奈守君、今、彼女いないらしいし」
驚くほどはっきり聞こえたその会話。三人の女子生徒が楽しげに話す姿が、廊下の窓越しに見える。以前だったら、耳にも入らず素通りしていた彼女達の恋愛話に、私は関心を持たずにはいられなかった。きっと、彼女達の中の誰かが比奈守君に想いを寄せているのだろう。どの子も可愛い。
足を止め話の続きを聞きたくなったけど、変に思われる。私は平然を装いその場を後にした。胸が痛むのを感じながら……。
教室に行くと、半数以上の生徒が登校し席に着いていた。比奈守君も……。
私とのことを人に話せない以上、比奈守君は学校の誰からも彼女ナシ認定されるわけだ。そうなったら、彼に告白を考える女子はさっきの子達以外にも出てくるかもしれない。
比奈守君に対してはっきり好きだと言えていないくせに、独占欲や不安だけはしっかり感じている。気持ちのこもったネックレスまでもらい、それを身につけておきながら付き合ってすらいない。比奈守君からしたらズルい女だよね……。
近くの席の友達と楽しそうに話している比奈守君を見つめ、私は複雑な気持ちになった。身勝手な都合で私は、彼の貴重な時間を奪っている?