「恋って、認めて。先生」
その日は結局、何をしても落ち着かなかった。比奈守君のことばかりが頭をめぐってしまう。
「ってことがあってさ……」
夜、アパートに集まった純菜と琉生を相手に、私は真剣に人生相談をしていた。
「私、教師失格だ……。自分もたいして大人になんかなれていないのに、相手が生徒だからって説教くさいこと言っちゃった……」
明日からどんな顔をして比奈守君に会えばいいのか分からない。
「それ、ヤキモチじゃないかなぁ」
純菜がのほほんと言った。
「比奈守君、飛星と永田先生が仲良くしてるのが面白くなかったんじゃない?」
「男ってのは精神年齢低いヤツが多いからなー。おれっちも、嫉妬のあまり彼氏に対してそういう言い方しちゃう時あるし!」
琉生までもが、実体験混じりに語る。
「そういうの、どうしようもないんだよな。相手のことを気にすればするほど、こっちも可愛いげのない態度しちゃうっていうか。後々『しまった!』って反省するんだけど、反省だけして結局謝れなかったりして」
「そっか、そういうもんなのか……。じゃない!」
納得しそうになって、私は首を激しく横に振った。二人の意見を真っ向からぶったぎる。
「なんか、そういう方向で話が進んでるけど、比奈守君と私の関係思い出して?生徒と教師!それ以上でも以下でもないの!」
純菜が、そっと手をあげ口を挟んだ。
「そうかもしれないけど、好きになる時はなっちゃうもんじゃない?私も高校の時、芳川(よしかわ)先生のことタイプだなって思ってたし」
「そうなの!?たしかに、女子からの人気高かったけど、芳川先生ってうちらより十歳以上年上じゃなかったっけ!?」
「好きになったらそういうの全部関係なくなるよ。年齢も含めてその人なんだし。まあ、私の場合、片想いですらなかったけどね。ただの憧れで終わった」
純菜のことがやけに大人に見えた。高校の頃から彼氏はいたりいなかったりで、別れる時も執着したりしないサバサバした子だ。私と同じで純菜も今は恋に興味がないようだけど、彼女に特別な誰かがいないことを私はすごく不思議に思う。
「芳川先生はかっこよかったから好きになる生徒の気持ちも分かる。でも、今回の場合、比奈守君が私を好きになる理由がないよ。たいして仲がいいわけでもないし、授業中くらいしか顔見る機会ないし」