「恋って、認めて。先生」

 こちらの視線に気付いたみたいに、比奈守君は私の方を見て目を見開いた。

 私の顔、おかしかった?

 あまりに見つめられるので、恥ずかしくなり視線を逸らしてしまった。普通にしないと。そう思えば思うほど、緊張感が湧いてくる。

「おはようございます」

 手にしていた名簿をギュッと抱きしめるように持ち教卓の前に立つと、皆も挨拶を返してきた。

「あっちゃん、おはよう!風邪、もういいの?」
「心配かけてごめんね。もう大丈夫だよ」
「なんか、今日のあっちゃん感じ違うー!可愛くなった!」

 永田先生と同じようなことを生徒達からも言われ、恥ずかしくなる。

「もしかしてあっちゃん、恋してるー?」
「相手誰!?大人な人?」

 友達のようなノリで尋ねはしゃぎ出す女子生徒達の言葉に、私はひどく動揺した。やっぱり私、今までと何かが違ってる?自分では隠してるつもりだけど、比奈守君とのこと顔に出しちゃってる!?悟られないよう、冷静に彼女達をなだめた。

「残念ながらそんないい話はないんだぁ。あ、そろそろ席に着いてね。もうすぐ予鈴が鳴るよ〜」
「はーい」

 比奈守君の視線を感じるけど、彼の方を直視できない。さっきあからさまに目をそらしたから気分悪くさせたかな?分かってくれるといいんだけど……。


 どうにもやっぱり、「普通に接する」というのは思っていたより難しい。

 こんな経験初めてなのだから仕方がないと自分をなだめつつ、比奈守君を不愉快にさせていないか気になった。他の子とは目を見て話すのに、比奈守君とはそれができなさそうだ。

 朝のショートホームルームで出欠を取る時も、比奈守君の名前を呼ぶ時だけ声が裏返りそうでドキドキした。

 このまま他のクラスの授業に行けたら気が楽なんだけど、今日はこのままロングホームルームをすることになっている。比奈守君とあんなことをした翌日にこの時間割に当たるなんて、天罰としか思えない。


「今日は席替えです。出席番号順にクジを引いてくださいね」

 永田先生から借りたクジの箱を教卓に置き、生徒達にクジを引いてもらった。レクリエーションや三者面談があってバタバタしていたので少し遅いかもしれないけど、A組の一学期の席替えは今日やると前々から決めていた。

 比奈守君がクジを引く時、彼がそばに来たことにドキドキしたけど、クジの箱を見ているフリをすることで何とかやり過ごした。


 生徒達が引いたそれぞれのクジ番号。それを元に、私は黒板に番号を書いていき、皆はそれを見て自分の机を移動させた。

「田宮、あっちゃんのそばで良かったじゃん!」
「そういうこと言うなー!」

 からかう男子生徒達に真っ赤な顔で反発し、田宮君は最前列の席に座った。田宮君は、教卓からもっとも近い席になってしまった。生徒からしたら一番座りたくない席だろうに、田宮君はどこか楽しそうにしている。
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