「恋って、認めて。先生」
そういえば、そんな話もあったっけ……。この前といい今日といい、田宮君が私を好きだと一部の男子生徒がからかうように言っていた。何かの冗談だと思い、私は本気にしていなかった。
何の根拠もないウワサでも、比奈守君にとっては気になるんだと思う。私が、C組の女子生徒達の恋愛トークに落ち込んでしまったのと同じだ。
私達は、同じ気持ち?好き合っているからこそ、比奈守君はそんなラインをしてくるの?お互いに惹かれ合っているから他の異性が気になる。心からそう思ってもいいのかな?
《大丈夫だよ。皆と同じように大切な生徒だけど、それだけ。田宮君と特別に親しくなることはないから。》
考えに考えそんな返事を送ったら、比奈守君からのメッセージはすぐに返ってきた。
《本当に……?》
その一言は、いつもクールで動揺という言葉とは無縁の比奈守君らしくなかった。短いメッセージに、ヤキモチを超えて不安すら透けて見えるようだった。
田宮君のことが、そんなに気になるんだろうか。それとも、私、信用されてない!?
そうだよね。ちゃんと付き合うって話もしていないし、彼に好きだと伝えてすらいない。比奈守君が不安になるのは当たり前だ。
《本当だよ。信じて?》
まともに付き合ってもいないのに「信じて」なんて、都合が良すぎるよね。自分のズルさに嫌気がしつつも他に返す言葉が見つからず、今はこう返すのが精一杯だった。
「不安なのは、私も同じなんだよ……」
静かな教室で、一人つぶやく。相手の言葉を同じ重さで受け止め合えたらどれだけいいだろう。
比奈守君に告白されるなんて、ましてやあんな関係になるなんて思わなかった。私は、彼への想いを一人静かに抱きしめて卒業式を迎える未来ばかり描いていた。
だけど、実際に起きたことは想像の真逆だった。自分でも恥ずかしいくらい彼のことが好きで、愛おしい。ーー比奈守君の言っていた通りだ。私は彼が欲しかったし、彼に求められることを望んでいた。
好きなら好きと、はっきり言うべきかもしれない。だけど……。
比奈守君のことを好きになればなるほど、現実で目の前がかすむ。そんな感覚が日に日に強くなっていくことを、この時の私は知らなかった。
願いが叶ってはじめて見えるものがある。それは必ずしもいいことばかりじゃなかった。
その日は、それきり比奈守君からラインのメッセージが来ることはなかった。
授業中で忙しいから、休み時間は友達と話してるから、返事ができないんだ。そう思い込むことで、胸に芽生えた新しい不安をごまかした。