「恋って、認めて。先生」
平然としつつ、比奈守君の姿が視界に入ると内心ドキドキしっぱなしだった。こんな調子で秘密の関係なんて続けられるのだろうかと心配になる。
帰りのショートホームルームで、田宮君は相変わらず人好きのする笑顔で話しかけてくれた。他愛ない雑談なのだけど、生徒に親しみを持ってもらえるのはやっぱり教師として嬉しかった。
放課後、予定通り職員会議が開かれた。
「先日もニュースになっていましたが、高校教師が生徒と個人的に親しくなった末に警察沙汰となる事件が後を絶ちません」
普段は穏やかな校長先生が、顔をこわばらせながら語る。
「ウチの高校の先生方なら大丈夫だと信じていますが、全国でそういった事件が起きていますから安心ばかりしていられないというのも本音です。たった一度の過ちが、教師だけでなく生徒にとっても一生を左右する出来事になります。今一度、改めて肝に銘じて下さい」
生徒の一生を左右するーー。校長先生の言葉が胸に沈殿した。
隣に座っていた永田先生が、他の先生方に気付かれないようこちらを見やり「ほらね」という顔をする。なるほど、そういうことだったのか……。たしかに、耳の痛い議題だ。
「特に二十代から三十代の若い教師を中心にそういう事件が発生しています」
校長先生が、永田先生と私の方に視線をやった。それにつられるかのように他の先生方までこちらを見てくるので、さらし者にされた気分だ。非常に落ち着かない。
「永田先生と大城先生は、我が校でもっとも若い教員です。生徒達は時に、君達の教師としての優しさや頼もしさを勘違いし恋愛感情を持つこともあります。若い先生だとなおさらです。特に永田先生は、女子生徒達から大変人気があると聞いています。分かっているとは思いますが、生徒達も難しい年頃です。どうか、過度な刺激をしないよう、程よい距離感を保って接するようにして下さい。大城先生も」
「分かりました。気をつけます」
永田先生と私の声が重なった。
「ああいうのホントかんべんしてほしいよ。程よい距離感保ってたってどうにもならないこともあるんだし」
職員会議が終わり、他の先生方が帰宅した後の職員玄関で、永田先生はため息混じりにそう言った。会議のネタにされたことで、私達はおのずと連帯感を感じ、会議後の感想を語り合う流れとなった。
「ああやって言われると、反応に困ってしまいますよね」
「僕は言われ慣れてるからいいけど、大城先生は困ったでしょ?大丈夫?」
「はい。ビックリはしましたけど、校長先生のおっしゃっていたことはもっともですし……」
「そうだけど、教師のことを考えてるっていうより、学校の評判気にしてあんなこと言ってるだけだから、校長先生は。気にするだけ損だよ」