「恋って、認めて。先生」
「はい。あまり気にしないようにします」
そう言いつつ、内心ひどく気にしていた。
比奈守君との関係が学校の人に知られたら、私達はどうなってしまうんだろう……。
永田先生は困ったように笑い、私の顔を覗き込んだ。
「もしかして、比奈守君のこと考えてる?」
「えっ!?」
「どうして分かったの?って顔だな」
「いえ、その……」
心の中を読まれたのかと思い言葉に詰まったけど、そうではなかった。
「話そうかどうか迷ってたんだけど……。この前比奈守君に、『彼氏でもないくせに大城先生に気安く触らないで下さい』って言われてさ」
「えっ!?比奈守君がそんなことを?」
多分、渡り廊下でのことだ。告白されるちょっと前、比奈守君は、渡り廊下で永田先生と親しく話す私に鈍感だと言い、私の肩を何気なく叩いた永田先生のことをセクハラ教師と罵っていた。
「すみません、気を悪くされましたよね」
「大城先生が謝ることじゃないよ。それに、比奈守君の言うことももっともだと思った。たしかに僕も、生徒の目がある場所で軽率なことをした」
「いえ、私は全く気にしていませんから。まさか、比奈守君が永田先生にそんなことを言っているとは思わなくて……」
「僕もビックリしたよ。一年の時から比奈守君のクラスの数学を担当していたけど、彼はおとなしいタイプというか、他の生徒達に比べると落ち着きがあるよね。若さ特有の自己主張の強さも感じない。だから、睨むような顔でそんなことを言われた時は本当に驚いたけど、理解もできるかな。僕にヤキモチやいたんだろうな。君のことが本当に好きなんだろうね」
男性として、教師として、永田先生はそう分析したのだろう。それがこんなに嬉しいなんて……。私はやっぱり、比奈守君のことが大好きなんだ。
「でも、彼は生徒ですから。たとえ私のことを想っていたとしても、卒業したらすぐに忘れますよ」
「本当にそうかな?」
永田先生はちらりとこちらを見て意味深な笑みを浮かべた。
「大城先生が綺麗になったの、彼の影響だと思ったんだけどな。何か秘密にしてない?」
「してないですよ。彼は生徒なんですからどうこうなるなんてあり得ません。思い切って、今日から高い化粧品に変えてみたんです。おかげで肌の調子も良くなったんですよ」
本当のことを知られたくなくて、そんなウソをついた。永田先生がそれを信じてくれたらいい、そう願いながら。
でも、やっぱり年上。私より人生経験豊富な永田先生に、ハリボテのような言い訳は通用しなかった。
「今日、比奈守君と廊下ですれ違った時、彼からバニラの香りがした。お見舞いに行った時、大城先生の服から漂ってきた匂いと全く同じ、ね」
「……!」
永田先生は勘付いてる。昨日、比奈守君が私の部屋に来たことを。目の前が真っ白になりそうだった。
先週、寝室の芳香剤をバニラの香りに変えたばかりで、まだ匂いが強く漂っている。比奈守君の制服やカバンにその匂いが移っていたとしてもおかしくない。
そんなこと、今まで意識していなかった。永田先生の指摘に膝が小さく震える。