「恋って、認めて。先生」
比奈守君との関係について、まだ報告はしていないけど、琉生と純菜は私達に何か進展があったと考えているらしく、今夜はアパートに来るのを遠慮するとラインでメッセージを送ってきた。
部屋に帰っても、今夜は一人。
前だったら何とも思わなかったのに、比奈守君から連絡が来ないというだけで、ひどく孤独な気持ちになった。それまで、毎日のように他愛ないやり取りをしていたから、よけいに寂しい。
今夜は何を作ろう。お腹は空いたけど何もする気が起きないな。職員会議で疲れたし、永田先生とのやり取りでも神経を使った。少し熱っぽい気もする。比奈守君と抱き合い治った気がしていたけど、まだ風邪が完治していないのかもしれない。
結局、どこにも寄らずトボトボした足取りでアパートに着いてしまった。まあいいや。今夜はシャワー浴びてすぐに寝よ。
けだるい気持ちで部屋の前に向かい、私は思わず声を上げてしまった。
「どうしてっ!?」
比奈守君が扉の前に立っていた。近くのスーパーで買い出しを済ませたのか、彼の手には大きなビニール袋が下げられている。
「先生、おかえり」
「比奈守君……!どうしたの?」
「驚かせようと思って、待ってました」
「もしかして、学校終わってからずっと?外、冷えたんじゃない?」
比奈守君の顔を覗き込むと、彼は何でもないと言いたげに微笑した。
「先生こそ、病み上がりなのに無理してないですか?今夜は俺が夕食作ります」
「えっ、でも、悪いよっ。親御さんに何か言われない?」
「……今日は外で食べるって言ってあるので大丈夫です。この前トマト鍋ごちそうになったお礼に作らせて下さい。簡単なものしか出来ないけど」
「ううん、ありがとう。ちょうど食べる物何もなかったし助かるよ。悪いけど、お願いしていい?」
「任せて下さい」
比奈守君は優しく私の髪をなで、頼もしい笑顔を見せた。
驚いたし、もう彼をアパートに呼ぶなんてダメだと思ったばかりなのに、当たり前のように比奈守君が会いに来てくれたことに、私は早くも胸を弾ませていた。
「昨夜寝てないし疲れたでしょ?先生は座ってて」
そう言い手伝いを拒否する比奈守君を強引に手伝いながら、私は尋ねた。
「ラインの返事なかったから、怒ってるのかと思ったよ」
「怒ってないですよ。返事なくて、寂しかったですか?」
「やっ、その……」
「俺のことばかり考えてました?」
「なっ!もしかして、返事しなかったのはわざとなの??」
「さあ、どうでしょう?」
意地悪に目を細める比奈守君は、小悪魔ならぬ悪魔にも見えた。
「そんなっ!比奈守君ってそういうことする人なの!?返事来なくてすごく心配したんだからね!?」
「素直じゃない人を素直にさせるには、多少計算も必要なんですよ」
「さ、策士だ……」
連絡をくれなかったのも、わざと。私をこういう気持ちにさせるために比奈守君は狙ってたんだ。本当なら怒らなきゃいけないのに、そういうことをされても仕方ないと納得し、同時に喜んでしまう自分もいる。