「恋って、認めて。先生」

 けっこう真面目にしゃべった私を優しい目で見て、純菜は言った。

「飛星って仕事真面目にやってるし、話しかけやすいオーラあるし、そういうのに好感持つ子いると思うな。年の近いお姉さん!みたいな感覚でさ。それに、比奈守君とはなんだかんだでプライベートな会話してるよね。名前のこととか、永田先生のこととか。比奈守君もそんな飛星に気を許してるからこじれたりもするんじゃないかな」

 たしかに。他人行儀な間柄じゃ、今日みたいなトラブルだって起きないよね。

 恋愛うんぬんはいったん脇に置いとくとして、純菜の言葉にはとても励まされた。私、まだ教師を続けていけそうな気がする!


「恋に落ちるのなんて一瞬だからな!」

 琉生が、声高く言う。

「好きになるってのは理屈じゃないんだよ。飛星もそのうち分かると思うぜ」
「……そう?」
「そう!」

 ホットプレートを棚から引っ張り出してきて、琉生は慣れた手つきでチャーハンを作り出す。琉生と純菜は、まるで自分ちのようにうちのキッチンの物のありかを把握しているのだ。

「琉生、ヤケドしたら仕事に響くでしょ?私やるよ」
「いいって。こんくらい」

 手伝うと申し出た私の手をヒラリとかわし、琉生はチャーハンの具材をポンポンとホットプレートに転がしていく。ジュワッと音がし、おいしそうな匂いが広がった。

 琉生は、某有名楽器店専属のピアノ講師をしている。生徒を何十人と受け持つ人気講師だ。毎日ピアノを触らなければならない仕事なので手にケガをしそうなことはさせられないと思ったのだが、琉生はヤケドなどせず器用にチャーハンを完成させた。


 人にものを教える。専門は違えど同じ仕事をしているということも、琉生と私が交流を深められた理由なのかもしれない。

「生徒って正直だからな」
「琉生は、教え子に好かれたりとかってけっこうあるの?」
「おれっちの場合、相手は小学生ばかりだけどな~」
「あ、そうだったね」
「生徒は、ある意味大人よりまっすぐで純粋だよ。心を込めて接したらちゃんと感じ取ってくれる」
「……比奈守君も、そうかな?」
「ああ。きっとな。どうなるかは飛星次第だと思うぜ」

 そっか。心を込めた分、想いはしっかり伝わるんだ。

「そうだよね。何かする前に諦めたらもったいないかも!!比奈守君と、もっと向き合ってみるね。ありがとう!」



 恋愛なんて全く興味ないけど、一年間同じクラスで過ごす生徒達とは仲良くやりたい。もちろん、比奈守君とだって。

 彼とは色々あったけど、ここは大人の私が折れよう。

 琉生と純菜のおかげで元気を回復させた私は、翌日、いつもより明るい心持ちで学校に向かった。

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