「恋って、認めて。先生」
「じゃあ、どうして合鍵受け取ってくれないの?」
受け取ってもらえなかった合鍵を握りしめ、私はうつむく。
「飛星。傷付けてごめん……」
私を抱きしめたまま、比奈守君は言った。
「合鍵はまだ受け取れない」
「付き合うつもりなのに、どうして合鍵はダメなの?」
「飛星との関係、大切にしたいから」
比奈守君は、合鍵を握る私の手をそっと両手で包み込んだ。そのあたたかさに、今度こそ涙が出そうになる。
「飛星のこと、大切だよ。だから、合鍵は卒業するまで受け取らない」
「……そんな……」
「ここへはこれからも会いに来るよ。でも俺、飛星のことになると自制効かなくなるから、合鍵受け取っちゃったら、ずっとそばにいたくなる。学校とか塾もサボっちゃいそう……。今日だって、本当は学校なんか行かず一日中飛星のそばにいたかった」
比奈守君も、同じ気持ちでいてくれてるんだ……。
「でも、そんなことしたらすぐ学校とか親にもバレて、飛星と一緒にいられなくなるかもしれない。だから、大人になるまで、それは受け取れない」
「夕……」
「子供で、ごめん。でも、この気持ちは誰にも負けないし、いつも心はそばにいるから」
比奈守君は、私の存在を確認するみたいに強く抱きしてめてくれる。
彼と付き合うことに不安がないわけではないけど、それまで抱えていたモヤモヤはすうっと晴れ、一瞬でなくなった。
合鍵は、その時が来るまで大切にしまっておこう。
その日から、私達は付き合うことになった。
時に歪んで見えてしまうけど、私達なら、何度でも正面から向き合える。根拠はないけど、そんな自信が、前より大きく持てるようになったのもこの時からだった。
永田先生のことは気がかりだけど、気にしすぎても裏目に出るかもしれない。これからはなるべく堂々としていよう。