「恋って、認めて。先生」
7 月明かりとプール


 体育祭が終わると梅雨の時期が訪れ、あっという間に夏が来た。

 比奈守君との関係は誰にも知られることがないまま、彼との交際は順調に続いていた。

 永田先生と二人きりで話す機会があっても比奈守君の話題は出ないし、まるでレストランでの告白などなかったかのように、永田先生とは普通に話が出来るようになっていた。

 比奈守君が気にしていた田宮君の件も、特に心配することはなかった。

 近くの席になったことで、田宮君とは比奈守君以上に教室で接する機会が増えたけど、いつかのように田宮君の私への態度をからかう男子生徒も最近はいなくなった。田宮君が元々そういうフレンドリーな性格だということは皆が知っていたので、同じ話題でからかうのにも飽きたんだと思う。


 比奈守君とは、初めて抱き合った日以来、体を重ねることはなかった。アパートで会っても、指先を絡ませてキスまで。

 キスをして抱きしめ合うと、そういう気分になってしまうことが何度もあった。比奈守君もそうだったと思う。だけど、私はあえて、そういう空気にならないようにしていた。

 わざとらしく急用を思い出してみたり、仕事があると言って早めに彼を家に帰したり……。

 私達が付き合った後も、琉生と純菜は時々アパートに遊びに来ていたので、そういうのも、比奈守君と触れ合うきっかけを逃すことにつながったんだと思う。

 比奈守君がそのところどう思っているのかは分からないけど、彼は、琉生や純菜に会うと柔らかい対応をして場になじんでいた。琉生と純菜にとっても、比奈守君は弟みたいな感じに思うらしくとても可愛がっている。

 時々琉生がきわどい下ネタを口にするのでそのたび比奈守君の反応が気になりドキッとするけど、皆がそうやって仲良くしている姿を見ると幸せな気持ちになったし、秘密の恋に対する後ろめたさも軽くなった。

 
 比奈守君がアパートに来てくれるのは週に3日ほど。塾がない日に限られる。

 もっと会いたいし、肌を合わせて彼のぬくもりを感じたいと思わなくはなかった。でも、受験生である彼のことを思うと、やっぱり安易にベタベタしてばかりはいられない。

 それだけでなく、彼の存在が大きくなればなるほど失うこわさも大きくなるし、彼にのめりこむあまり退職を望んでしまいそうだ。だからこそ、あえて彼との深い触れ合いを避けていた。


 比奈守君に会えない日、琉生と純菜は彼の実家の焼肉屋に私を誘った。今では、2週間に1〜2度は比奈守君ちの店で夜ご飯を食べるのが当たり前になっている。すっかり常連になった私達は、彼のご両親とだいぶ親しくなっていた。

 比奈守君との交際を隠して彼のご両親に会うのは胸が痛んだけど、それ以上に比奈守君の姿を少しでも多く目に入れたいという想いの方が強く、毎回複雑な心境で私は店に足を運んだ。友人を連れて食事に来た担任教師の顔をしてーー。
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