「恋って、認めて。先生」
夏休みを目前にした今日この日も、「スタミナつけて暑さを乗り切るぞ!」という琉生の言葉に誘われ、純菜と私は比奈守君ちのお店で夕食を取ることにした。
とはいえ、店に行っても比奈守君に会えるとは限らなかった。むしろ会えないことの方が多い。
彼は塾通いで忙しいし、塾のない日も自分の部屋で勉強している。ラインで比奈守君からそういうメッセージが来たし、店で働く彼のご両親もそう言っていた。そんな状態で店のお手伝いができるわけない。
分かっていたし、寂しくないと言ったらウソになるけど、彼の実家の店に行く。それだけで何だか特別なことに感じたし、そういうことをしても彼に迷惑がられない存在でいられるだけで充分だと思った。ただの担任教師だったらそんなことはできない。店内を見ながら、接客している比奈守君の姿を想像するのもけっこう楽しかった。
食事中、純菜が言った。
「飛星(あすな)幸せそう」
「うん。幸せだよ」
「大好きなんだね。比奈守君のこと」
「うん。なんかね、そこにいてくれるだけでいい!って感じなの。こんなに誰かを好きになったの、初めてだよ」
本音だった。比奈守君の存在が、私を強くしてくれる。また、こうして比奈守君への想いを受け止めてくれる友達のおかげで、プレッシャーや背徳感でつぶれずにいられるんだと思った。
純菜と私の会話に、琉生は苦笑する。
「いいなー!おれっちもノロケてー!」
「彼氏とはまだ距離置いてるんだっけ?春からだから、けっこう経つよね」
純菜の疑問に、琉生はため息混じりに答える。
「距離置くのはちょっと前にやめたんだけど、いまいちぎこちないんだよなー……。それで、純菜と飛星に報告する気にもなれなくて」
「そうだったんだ……」
「好きな気持ちはお互いに変わってないはずなのに、何でうまくいかないんだろ〜」
「せっかく元に戻ったのに、ぎこちないのは寂しいよね……」
私は心から共感を示した。以前は、琉生の恋愛話においてけぼりをくらっていたのに、今は、彼が話すひとつひとつのことが自分のことのように感じる。
「相手の親に認めてもらいたかったけど……。最終的にはおれっち達の気持ち次第なのかも」
そうつぶやく琉生はいつになく真剣で、その言葉には言いようのない覚悟みたいなものを感じた。でも、彼が何を思ってそんなことを口にしたのか、この時はまだ分からなかった。
「ま、ウジウジしたって状況は変わらないし、今日はパーっと飲んで楽しむぞー!」
琉生は陽気に言い、私達の分までお酒を注文した。
明日も仕事があるのでお酒は一杯だけで抑えておいたのに、帰り際、私は強く酔ってしまっていた。久しぶりに飲んだせいかもしれない。
帰り際、比奈守君のご両親に呼び止められても、私は普段のように緊張することなく、お酒効果でリラックスしていた。