「恋って、認めて。先生」
「夕が先生とお付き合いしていても、反対する気はありません」
「親の顔色見て止まるくらいなら、初めから関係持ったりしないだろうしなぁ」
お母さんとお父さんの言葉に、私は一気に肩の力が抜けるのを感じた。反対しない?本当に?
私の戸惑いを見抜いたのか、お母さんは困ったように笑い話を続けた。
「さっき話したイトコの子と比べるつもりはないんですが、私達はあの子に、何でも自分で考えて一人で出来るような子に成長してほしいと思い育ててきました。勉強はもちろん、日常生活のこともそうですし、自分のことを決めるにしても」
自立した大人の男になってほしい。そのためには、ある程度舵(かじ)を取りつつ、干渉し過ぎないことを心がけてきたと、ご両親は言った。
「進路のことは、あの子が投げやりになっているのが分かったのでさすがに口を挟んでしまいましたし、実際の子育ては理想通りにいくことばかりじゃなかったけど……。あの子が良しと決めたものを受け入れたいという気持ちは、昔から変わりません。まだまだ子供ですが、あの子もいずれ大人になり、結婚だってするんですから」
「で、本当のとこどうなのよ。夕のこと、家に泊めたの先生?夕に何度か訊いたけど、その件になるといっつもはぐらかされて終わるんだよ」
お母さんの想いとお父さんの質問に挟まれ、逃げ場がない。私は救いを求めるように純菜と琉生の顔を交互に見たけど、二人とも小さく笑うだけで何も言わない。
ここは、本当のことを言うしかないのだろうか。
反対はしないというご両親の言葉を信じて、私は本当のことを打ち明けることにした。心の中で、比奈守君に謝る。
「隠していて、本当に申し訳ありませんでした……!」
深く頭を下げたまま、私は話した。
「おっしゃる通り、私はあの日、自宅アパートに比奈守君を泊めました。風邪を引いて寝込んでいる私を心配し、彼はお見舞いに来てくれたんです。誰にも言わないと約束しあい、今、比奈守君と付き合っています。教師失格なのは分かっていましたが、彼のことが好きで、諦められませんでした。本当に、申し訳ありません……!」
謝罪の言葉を口にしていると、私は大きな罪を犯したんだという気分にさせられた。その気持ちの分、比奈守君への想いも加速していく。
「先生はおいくつでしたっけ?お若いとは思いますが、一生徒と付き合うことに抵抗はなかったのですか?」
責める風でもなく、心底不思議そうにお母さんは尋ねてきた。比奈守君の自立を願ってはいても、やはり母親。息子の交際相手の真意が気になるのは当然だ。最悪、私が比奈守君をたぶらかしているといった想像もしていたのかもしれない。
「抵抗はもちろんありました…!私は比奈守君より七つも年上ですし、告白してもらった時も強く断りました。私の立場はもちろん、彼は若いですし、すぐに心変わりするだろなって……」
「へえ!アイツから告白したのか!我が息子ながら、なかなかやるじゃねえか」
どこか重たかった空気は、お父さんの軽口で柔らかくなった。気持ちがふっと軽くなる。