「恋って、認めて。先生」
「本当に、反対なさらないんですか?私は彼の担任なのに……」
恐る恐る尋ねると、お母さんは嬉しそうに笑った。
「驚いてはいるし、親としては寂しい気持ちも正直あります。息子の自立を望んで育ててたのに、いざその時が来ると子離れしきれていない自分に気付いて……。だけど、それ以上に嬉しいものですよ。何より、先生がお相手なんて、私達には反対する理由がありません。我が家の恩人なんですから」
色々すれ違いはあったかもしれないけど、お母さんが比奈守君のことを大切に想っているのが分かり、胸がじんとした。
「付き合ってることは絶対口にしなかったけど、夕はいつも、先生の話をする時幸せそうにしていました。感情を表に出さない子だから、他人には分からない変化かもしれないけど、私達には分かります。あの子は唯一無二の大切なものを手に入れたんだって……」
「今すぐ歓迎するわけにはいかないけど、アイツが高校卒業して自分の稼ぎで食えるような男になったら、先生とのこと、しっかり認めるつもりだ」
お父さんが言った。
「悪いけど、アイツにもまだ高校生活が残ってるし、それまではまあ、コッソリしといてくれよな?会うなとは言わねぇから」
今すぐ表立って交際を認めるわけにはいかないけど、気持ちの上では受け入れている。卒業までは隠し通してほしい。ご両親は、私にそう頼んでいる。
「比奈守君の高校生活に傷をつけないよう、細心の注意を払います。お父様とお母様にご理解いただけた、それだけで私はとても幸せです。本当に、ありがとうございます……!彼のこと、必ず大切にします」
何度も繰り返し頭を下げ、私はご両親に感謝した。
絶対反対されると思っていたから、こんな風にすんなり許してもらえたことが嬉しかった。
「今すぐは無理だけど、夕が卒業したら、皆でどこか美味しいものでも食べに行きましょうね、先生」
お母さんが、言った。
「ううん、これからは飛星ちゃん、ね。夕のこと、よろしくお願いします」
店からの帰り道、琉生と純菜と並んで歩く。お酒を飲んだので、並んで駅まで向かうところだ。
まだ夢を見ているみたいに、足元がフワフワしている。ご両親に交際を認めてもらえた。そのことが、明るい未来を予感させてくれる。
「良かったな、飛星!」
「ドキドキしっぱなしだったけど、うまくいって本当に良かったね」
琉生と純菜も、一緒になって喜んでくれた。