「恋って、認めて。先生」
ご両親に認めてもらえたことで、私は新たな覚悟をした。
これはもう、比奈守君と私だけの問題じゃない。万が一学校関係者に私達のことが知られたら、比奈守君と私だけでなく、彼のご両親も傷付けてしまう。迷惑をかけてしまう。
これまで以上に慎重に動かなくては。
ご両親の許しを得られたばかりだし、何も考えずにパーっと舞い上がりたいけど、そういう時こそしっかり気持ちをひきしめないと。
途中の駅で純菜や琉生と別れアパートに戻ると、私はさっそく比奈守君に送るメッセージをラインの画面で綴った。
《今頃塾だよね。お疲れ様。帰ったらゆっくり休んでね。
今日、夕のお店に行って、ご両親に私達のこと話したよ。二人の秘密だって約束したのに勝手なことしてごめんね。》
本当は直接会って話すべきことかもしれないけど、比奈守君は今、塾だ。あまり私のことで時間を割かせるわけにもいかない。
だからって、そんな時にこんな話をしたらよけい負担をかけてしまうかな?
考え直し、メッセージを書き直す。
ご両親への報告の件に関する文章は削除して、お疲れ様というメッセージだけ、いつも通りに送った。
酔いはさめたものの、お酒が入っているせいか、シャワーを浴びてすぐに寝てしまった。
夜中、比奈守君から何度も着信があったと知ったのは翌朝になってからだった。
よほどの急用だったのか、残っているのは着信履歴だけで、ラインのメッセージなどはひとつも届いていない。
「どうしたんだろ……?」
もしかすると、もう、ご両親から昨日の話を聞いたのかもしれない。勝手なことをした私に、比奈守君、怒ったかな?
気になりつつ、起きたのがギリギリの時間だったので比奈守君にろくな挨拶メッセージも送れず、私は駅に急いだ。
電話の用件が気になるし早く話したいけど、学校で比奈守君に会えたとしてもプライベートな会話なんてできない。どう頑張ったって放課後になってしまう。
どうして、比奈守君が電話をくれた時間まで起きていられなかったんだろう!?
昨夜の自分を悔やみながら出勤すると、職員室に入って早々、三年生の先生達が、何やら困った様子で顔を寄せ合っている。
「おはようございます」
挨拶の後、話の輪にいる永田先生に近付き、私は尋ねた。
「何かあったんですか?」
「井本先生が、急な腹痛で今日欠勤することになったんだ」
「井本先生は、たしか保健体育の担当でしたよね」
2年B組の担任をしている井本先生とは直接関わったことがないけど、男子校出身の熱血漢だというウワサは先生達から聞いて知っていた。
「欠勤されたということは、井本先生に代わって体育の授業を進める先生が必要になりますね」
「そうなんだよ。だけど、僕も、他の先生方も、今日は井本先生の穴埋めを出来るような時間割じゃなくて……。しょうがないから自習にしようかって話してたところなんだ」
しかし、今は夏。プールの授業を楽しみにしている生徒は多いので、暑い教室で自習なんてことになったら、生徒達から不満の声が飛んできそうだ。