魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 すぐ横に、固い鎧に包まれているとはいえ勇飛くんがいて、緊張してしまう。カチコチになっているのがわかったのか、勇飛くんがクスッと笑って言う。

「この世界では、頼れるのはお互いしかなさそうだね」
「そう……ね」

 この御者のおじいさんにあんなに敵視されたくらいだ。村に帰っても魔法使いは肩身が狭そう。確かに私には勇飛くんしか頼れる人がいない。

「俺は津久野さんのことをセリって呼ぶし、津久野さんも俺をユウヒって呼んでくれていいよ」

 彼の言葉に目を丸くする。そりゃ心の中では勇飛くんって呼んでるけど。でも、いきなり本人に呼び捨てなんて……。

「無理?」

 私の心の中を読んだみたいに、勇飛くんがニッと笑った。

「うん、呼び捨ては難易度が高いかな」
「名字以外ならなんでもいいよ。ただし、剣士様とかはなしで頼む」

 いたずらっぽく片目をつぶられ、私は思わず笑みをこぼした。勇飛くんとこんなに親しく話せるのなら、ゲームの世界も案外悪くないかもしれない。

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