魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 けれど彼よりも早く誰かが私の腕をつかんだ。

「こっちにいらっしゃい」

 その人は私を引っ張るようにしながら、村人たちの間を抜け、ずんずん歩いて行く。

「あの……」

 私が声をかけても、麻の長衣(ローブ)を着た広い背中は振り返りもしなければ、何も言ってくれない。不安になりかけたとき、村はずれにぽつんとある小屋が見えてきて、やっとその人は立ち止まった。

「やれやれ、あんた、治癒魔法を使うほどの体力も残ってなかったの?」

 振り返ったその人は……!

「クマゴン!」

 そう、担任の熊田先生だ。私がびっくりして目を見開いていると、先生はムッとしたように眉間にしわを刻んだ。

「呼び捨てにするとは失礼ね。マスター・クマゴンとお呼び」

 マ、マスター・クマゴン!? しかもオネエ言葉……。

「ほら、早くお入り」

 マスター・クマゴンはぽかんと口を開けたままの私を小屋の中に引き入れた。入ってすぐのところに粗末なキッチンがあり、小さな暖炉の前でケトルがシューシューと音を立てている。

「お茶を入れてあげるから座りなさい」
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