魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 言われなくても、もう精神的にも体力的にも限界だ。私は崩れるように暖炉の横の椅子に腰を下ろした。脚の長さが違うのか、がたついている。それでも敵対心剥き出しの御者の馬車に揺られているより、よっぽど居心地がいい。

「あのぅ、熊田先生はいったいどういうキャラなんですか?」

 先生もゲームの中に入ってしまったんだろうか。そう思って訊いたのに、マスター・クマゴンは不思議そうに小首を傾げた。巨体でそれをやられると笑わずにはいられないんですけど。

 奥歯を噛みしめて笑いをこらえようとする私に、マスター・クマゴンが言う。

「クマダセンセイって誰のこと?」
「やだなあ、先生ってば。もちろん先生のことですよ」

 私が笑って言うと、先生はムッとしたように言う。

「あたしはマスター・クマゴン。この村の陰の権力者よ。村人たちは長老のアンダルサイトを尊敬しているけれど、本当はあたしの方が偉いの。村のことも王国の歴史もなんだって知ってるんだから。アンダルサイトだって、こっそりあたしに相談に来ることがあるくらいなのよ」
「はあ」

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