魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 マスター・クマゴンが心配そうに手を伸ばして私の額に触れた。熊田先生の顔がドアップになり、思わず腰が引けそうになるが、ひとりぼっちになってしまったと思っていたこの世界で、気にかけてくれている人がいることが嬉しくて、目がうるうるしてきた。

「熱はないみたいね」
「はい。でも、今の状況がよくわからなくて」
「よくわからない?」
「はい。なんでここにいるのか、とか」

 ぽつりと言うと、マスター・クマゴンが私の背中をぽんぽんと軽く叩いた。

「山賊に襲われたって言ってたわね。その中に魔法使いはいた?」
「それは……わからないですけど、でも“混乱ガス”がどうとか言ってました」
「かわいそうに、コンフュージョンの効果を受けたみたいね」
「コンフュージョンの効果?」

 私のつぶやきに、マスター・クマゴンがため息をついた。

「ほら、何とかって珍しい花の実をすりつぶして粉にして、火であぶると取れるガスのことでしょうが。魔法のコンフュージョンと同じ効果を持つのよ。効力が強すぎて、一時的に記憶が混乱しているのかもね」

 ゲームを始めたばかりで何もわかっていないだけなんだと思うけど、それは言わないでいる方がよさそうだ。

 私が黙っていると、マスター・クマゴンがまたため息をついた。

「唯一生存が明らかな魔法使いがこんな調子じゃ、村は……この国はどうなってしまうのかしら」
「唯一?」
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