世界で1番愛する君へ~君に届けるラブソング~
「うぇぇ…」
私は1人で泣きじゃくる
拭っても拭っても溢れる涙を、思い出せば思い出すだけ溢れてくる涙を誰もいないこの場所
父が1度外出が許されたときに来た
父と最後に来た場所
近くにあるちょっとした小さな公園で
珍しく雪が積もった真っ白な景色
寒いけど
1人になりたくって
家で泣いていたらお母さんまで泣き出してしまいそうで
私は1人でひっそりと泣いていた
大好きだった父との最後の思い出を思い返す
『お父さん!
早く元気になってね、退院したら遊園地に連れてってね?』
『よーし、父さん頑張るぞー
絶対、退院するからな!』
『うん!』
もう戻ってこない父の姿が浮かぶ
遊園地、楽しみだったのにな
わがままかな
私とお母さん残して死んじゃうなんて…ひどいよ
「ねぇ、」
誰の声?
ビックリした反射でばっ、と後ろを振り返る
そこにいたのは私と同じくらいの背丈の男の子
近所で見たことのない初めてみる男の子で
「ねぇ、なんで泣いてるの?」
首を傾げて質問をしてきた
知らない男の子に話しかけられたから、理由なんて知られたくないと思ったから私は首を横に振るだけ声は出さなかった
男の子の顔を見つめながら目に浮かんでいた涙を手で拭った
そして、もう何処かに行って欲しいのに男の子は更に私に歩み寄って質問をする
「ねぇ、どこか痛いの?」
違う
私はまた首を横に振る
要らないよ、励ましなんて…
お父さんが戻ってくる訳じゃあるまいし
はやく何処かに行ってよ
1人にしてよ、お願いだから
「ねぇ、悲しいの?」
悲しいの?
悲しいよ、でもあんたには関係ないじゃない
話したって分かってくれるわけない
話し出したら、思い出したらまた……
もう、泣かせてよぉ
涙が溢れて止まらなくなる
「う、うぅ、うぇ」
あー、もう
なんで泣いてるのよ、私
なんで……?
「ほら、やっぱり…
泣いていいんだよ?」
優しい笑顔で微笑む君がとても眩しい
暗くなった私の心に射し込んでくる太陽のようで私を一生懸命照らそうとしているの気がする
そんな笑顔がどことなく父に似ているような気がした
ザシュ
ザシュ
雪を踏みながら男の子はこちらに向かってきて私の目の前で前屈みになって私に顔を近づける
降った雪はもう柔らかくなく硬い
そんな地べたにズボンが濡れることも構わず座り込んで泣いていた私の目の前で優しく微笑む君
「ねぇ、どうして泣いてるの?」
私は俯いて泣いていた顔をあげて男の子の顔をはっきりと見た
真っ直ぐに私を見てずっと私の返事を待っている
きっといつまでも言わなかったら質問され続けるだろう
それに…嫌いじゃない
その笑顔
もう、首は振らない
「お、おと…ぉさ…ん…」
泣いたせいで荒れた呼吸
所々に間ができてしまう
泣きたい心をふさぎこみ私は軽く冷たい空気を吸い込んだ
でも、男の子はそんな声も聞き取れたようだ
「お父さん?」
「う…ん、お父さん…
死んじゃ…た…の…
い、いなく…なっちゃった…」
「うん…」
「まだ、もっと…一緒…にいたかった、のに」
「うん…
お父さんのこと大好きだったんだね」
優しい口調でそういって頭を撫でる小さな手
温かくて
優しくて
柔らかくって
その優しさが私を温かくする
心がポカポカするようだ
安心感っていうかホッとするの
何か込み上げてくる
熱くて痛いぐらいの
涙が…
「ねぇ、泣かないで?
寂しいの?
僕がいるよ?
ここにいるよ?」
「うん、分かってるよ
ありがとう…」
ねぇ、なんでそんなに優しいの?
暖かい言葉をくれるの?
見知らぬ私に名前も知らない私にどうしてよ
ねぇ、信じてもいいかな?
私を友達にしてくれるかな?
「あの…さ、名前、何ていうの?」
突然の君からの問い
名前…?
うん、私も聞きたかったんだよ
他にもいっぱい聞きたい
君のことを知りたい
ていうかなんでそんなに顔が…赤い?
「僕は、カナウ…」
「私はルナだよ」
「そっか…
ねぇ、ルナ?」
カナウは真っ直ぐな大きな瞳で私を見つめる
場に緊張感が走る
なんでか心臓がドキドキして苦しいのはどうして
「何?」
私は笑顔でそう返す
きっとカナウに見せた笑顔はこれが最初
「僕を、僕をルナの…」
「ん?」
「僕ね、絶対にルナの側からいなくならないから!」
えっ、と声が漏れた
そしてカナウはそれに構わず続ける
「ずっと一緒にいるから
ルナがもう泣いたりしないように
約束する
僕をルナのお婿さんにしてください!」
「え…?」
「ダメ、かな?」
お婿さんって…
ずっと一緒にいられるってこと……だよね
ひとりぼっちにならない
いつも誰かが側にいて私の隣で笑っていてくれるってことだよね
カナウと一緒に居れる?
私はもう悲しい思いをしなくていいの?
お父さん…ねぇ、どうかな?ダメかな?
もう何も失いたくない
カナウは、一緒にいてくれるって…
この先お父さんと過ごす日々で埋めるはずだったこれからをカナウにあげてもいい?
お願い
これが私の最後のわがまま
いい…よね…?
私はカナウを信じるから
お父さんも私とカナウを信じてほしいの
「うん…うん!
いいよ!
私をカナウのお嫁さんにして!」
「やったー!」
そう言ってカナウは私の手をぎゅっと握って顔を近づける
間近でみるカナウの微笑む顔
そしておでこにキスを落とした
軽いちょっとした触れただけのキスでもはじめてのことばかりでドキドキする
そんな初恋
きっと明日にはもっともっと好きになる
カナウは顔を離して満面の笑みを浮かべる
「約束だよ?
絶対だからね!」
そう言いながらカナウは右手の小指を差し出す
「うん…約束」
私はその手に自分の小指を絡ませる
ずっとずっと一緒
君のことを信じてる
絶対だよ?
熱い思いが込み上げてくる
寒いのなんて関係ないぐらい熱くなる
私も、カナウの側にいるからね
「ルナ?
どうして泣くの?」
そういわれて自分の頬に手をそえて自分が泣いていることに気づいた
でも、この涙は…
悲しいからじゃないんだよ?
「また、悲しいの?」
カナウは頬にそえていた私の手に自分の手を重ねた
心配そうな顔で弱々しく見つめるカナウ
冷たくなった私の手をカナウの手袋…ううん
カナウの優しいぬくもりが温かくしてくれるようだ
そのぬくもりは何よりも温かくて
ずっと触れていたくなる
「ううん、違うよカナウ
嬉しいの…
カナウに出会えて良かった…」
「そっか!
僕も会えて良かった!
ルナ、大好き!」
「私も!」
私が微笑むと優しく微笑み返す
幼いなりの精一杯の初恋
精一杯の大好きが伝わる
精一杯の大好きを伝える
だからこの先に見えることなんて見えていなかったんだ
今が幸せすぎてこんな幸せがいつまでも続くと思っていたまだ幼い私達を出始めた太陽が照らした