世界で1番愛する君へ~君に届けるラブソング~



昼休みのざわめく教室の中

私はアヤメの前の席に座って読書に勤しむカナウ君を今日も見つめる

回りの騒音など全く気にせず本を捲るカナウ君の手が遠くて少し切なくなる

あの小指に約束したんだけどな

それも、もう遠い過去


「ねぇ、アヤメ」


私は机に肘をつけながらアヤメにどこか抜けたような声で話しかける

もう卒業、そんな実感がなく

こんなボーッと過ごすぐらいならカナウ君に話しかけた方がいいのかもしれないけどなんか前より話しかけずらくなった

一昨日見つけたあの写真

本当は違う人なのかな

なんて疑問も浮かんだことは浮かんだけれど

どうであろうととにかくカナウ君が好きなことに変わりないし

だから、まぁカナウ君が約束を忘れていても私は嫌いになれない

とにかくこんな卒業間近な時期にまさかこんなことが起こるなんて


「恋って辛すぎるんだけど」


ため息混じりの私の言葉

アヤメにはいろいろ協力してもらったし、支えてもらったけど全然結果が出ていなくて申し訳ない

そして最後まで迷惑ばっかりかけてしまうかもしれないけれど私はアヤメのこと信用してるから

最後までアヤメに頼って、フラれたときは慰めてもらおう

だから、アヤメも私を頼っていいよ、って感じだけどまだ恋とか興味ない、と聞くたびにいつも言うアヤメは初恋もまだという今時珍しい子なのだ

それでも、恋の話を聞くのは上手だしアドバイスだってちゃんと現実性があるもの

それがいつも不思議なことはアヤメには秘密だけど


アヤメは私の言葉に「あぁ」といいいながら納得してカナウ君の方向に顔を向けた

それにつられて私もカナウ君の方向に再び顔を向ける

アヤメは反応は薄いけどそれでもちゃんと相談にのってくれる

私の良きアドバイザーだ


昼休みの教室の中のうるささといったら結構異常なもので

どこからか悲鳴すら聞こえてくる始末

だからコソコソと話すべき恋ばなでさえも堂々と話していても全く誰にも聞こえないだろう

男子が男子をおんぶして教室中を走り回ったり、女子を追いかけ回したり、何の話をしているのか爆笑する女子達

全部が重なりあいこの騒音を作り出す

そのおかげでこうやって恋ばなが出来ているんだけどね

それに…

カナウ君のレアなイライラしてるところ、を見られるし

さすがにこのうるささはカナウ君も堪えるのかな

さっきまではまだ大丈夫そうな平気な顔してたのにね

普通に綺麗な顔立ちだしモテてもおかしくないと思うんだけど、やっぱりまわりと関わろうとしないところがダメなのかな

でも、それでもいいなぁ

私だけがカナウ君の魅力に気付いていればいいし


私は再びアヤメと向き合って座り直すとアヤメに質問した


「アヤメはさぁ、ぶっちゃけカナウ君が私を好きになると思う?」


客観的に見てどうなのか

カナウ君は私を全く相手にしてないように見えるのかな?

実際そうだけど…でも他の女子よりも男子よりもカナウ君と関わってきたつもりだし少しでもいい感じに見えていたらいいな


アヤメは少し考える素振りを見せてから私と目を合わせるそして、「ぶっちゃけちゃうとさぁ」と切り出す

そしてカナウ君に目をやってからため息混じりにこう放つ


「重留ってルナのこと相手にしてる感じないよ」


そう言ってから横目でチラッと私を見てから視線をカナウ君に戻すアヤメ

そして続ける


「だっていつでもスルーじゃん、ルナのこと…

 ていうか重留って恋とかしたことあるのかね?

 ルナの気持ちにちゃんと気づいてるの?」 


アヤメはカナウ君を見てから再びため息をついた


ひとつ

気づいてるかいないかは大きな問題

気づいていて冷たいのと気づいていなくて冷たいのかどちらかによっては心の痛みが違うもの

それに、カナウ君は恋をしたことはあるはずなの

だってカナウがカナウ君なことはまだ五分五分ってところはあるけどそれでもカナウは私を好きで私はカナウが好きだった


「私ね、カナウ君にちゃんと好きだ、って言った訳じゃないからカナウ君が気づいていなくてもしょうがないと思うの

 恋したことがあるかは分かんないけど……ね…」


ガタンッ

私は見えた衝撃的な状況に言葉が詰まった

驚いた勢いで立ち上がったせいで椅子が音をたてたが教室の騒音に負け響かなかった

だから、カナウ君が私に気づくことはなかった

アヤメも私の目が向いてる場所を追い状況を把握し顔をしかめた

そこまで…そこまで私、独占欲強くないと思ってたのに

カナウ君に近づく女子の陰が許せない…なんて、信じられないなんて

同じクラスの女の子

カナウ君の側に寄っていってそのまま教室から連れ出してしまった
 

この時期、このタイミングで呼び出しってことは


カナウ君にせまるは告白

私に現れたのはライバル


私は引き寄せられるように自然と足が前に出たが我に返り足を止める

危ない、危ない

こんなことまでしちゃダメだよね

私が行ったところで…状況は変わらない

行きたいけど…行っちゃダメ

ダメだよ、私

心臓が痛くて苦しいのはしょうがないよ、だって私以外にカナウ君のこと好きな人なんていると思ってなかったから

自分だけ好きだと思ってた…私の考えが甘かったんだよね

教室の扉をしばらく見つめていたが思い直して座ろうとする

そうすると誰かに腕を捕まれ体が浮いた


「えっ…」


声が漏れた

腕をつかんだのはアヤメ

そのままもう一度しっかりと私を立たせた

そして、腕を引っ張って教室の扉へと向かわされる

ズンズンと前に進んで避けきれなかったクラスメイトの肩に何度もぶつかった

それでもアヤメはスピードを落とさない

とにかく私はされるがまま足を進める

騒ぐクラスメイトの間を通り終えて教室を出てから足は止めずに歩きながらアヤメは口を開いた


「私がどうこう言うことじゃないし、迷惑だったら振り切って逃げていいから…

 これだけは聞いて


 迷うぐらいなら前に進みなさい」


そう言いながらアヤメはツカツカと足を進める

廊下にいた生徒が私達に振り返る

この状況は結構人目につくようだ

でも、アヤメはそんなことお構いなしで私の腕は強く引いたまま階段を降り始めるそして階段の踊り場で立ち止まる

今なら人はいない

ただ響くのは教室から漏れてくる騒音

誰かが来る気配もない


アヤメがここまで私の恋事情に首を突っ込んでくれたのは初めてだった

いつも応援はしていてくれたけどこんなに強引に私を引っ張って、なんてことはなかった

だから、正直驚いたけど私はその場から逃げることはなかった

アヤメの言ったこと図星だった

私は自分を隠そうとしていた

これ以上詮索したら嫌われちゃうかもとか思って自分に嘘をついていたんだ

本当は知りたい

そんな思いを閉じ込めて逃げようとした

でも、アヤメが手を引いてくれた

前に進むことを教えてくれた

迷う心に解答が現れる

私は逃げない

気になって、気になってしかたがないからそれを確かめに行くよ

だってカナウ君のこと1番大好きなのは私だもの


「私、カナウ君探す」


そう呟いた

その言葉を聞いてアヤメは優しい笑顔を浮かべた

腕からアヤメの手が離れる

そして頑張って、と言ってから教室に戻ろうと階段を上ろうとする

そんなアヤメを引き止めた


「待って!

 お願い、アヤメも一緒に来て

 1人じゃまだ、前に進めない

 だから…」


今は無理なの

もしも…もしものことがあったら私は立ち直ることが出来ず1人で歩くことすら出来ないかもしれない

アヤメは納得したようにフッ、と笑うと数段上っていた階段をゆっくりと降りた

そして、真顔になり頷いた


「分かった…

 でも本番は1人で行くって約束しなさい」

「うん」


私は頷いてから急いで階段を降りるアヤメの後を追いかける

どこに行ったかなんて知らない

とにかくこっちの方に行った分かることはそれだけ

でも、必ず見つけるから

私はもう逃げない、逃げていた自分を全部振り切って今、走るよ

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