世界で1番愛する君へ~君に届けるラブソング~



渡り廊下にたどり着き女の子は口を開く


「重留くん、ずっと前から好きだったの」

 付き合って…下さい…」


女の子はそう言って赤い顔をうつむかせる

そして上目遣いでカナウ君のことをそっと見上げる

そんな仕草がとても可愛く似合っているフワフワした雰囲気を放つ女の子

クラスでの立ち位置はかわいい癒されキャラ…みたいな?

対する私はそんなフワフワしたものじゃないんだろうな

だって、あの子よりもずっと可愛くない

モテないし、ダメなところばっかりで唯一のいいところは…きっとカナウ君に一途なところかな?

カナウ君以外の人に興味なんてない

それはこれから先も?

この気持ちは一生続くのかな?

だって高校…一緒じゃないし…

会えないんじゃ、またカナウのときと同じようにカナウ君のことも忘れてしまうのかな?

一方のカナウ君は驚くようすもなくただ無言で告白を聞いてあげていた

頷きながらそして閉じていた綺麗な形の瞳をそっと開いた

タイミングよく太陽が雲から離れたようだ

差し込んできた太陽がカナウ君と女の子を照らすスポットライトにしか見えなくてお似合いにしか見えなくて心が傷んだ

それでもついてきたことを後悔なんてしてない

見て見ぬふりをしてただ席に座っているよりはずっと

カナウ君は何を言うのだろうか?

カナウ君が口を開くのが怖い

やめて、お願い

カナウ…約束したでしょ?

私の側にいて…

あんな幼い頃の思い出忘れていても、私は大好きだよ…カナウ君…


「ごめん…


 俺はやっぱり好きな子が好きなんだ

 だから気持ちに応えられない」


でも、ありがとう、そう付け足してカナウ君はひっそりと笑った

わっ、カナウ君が微笑んで…

太陽の光が反射してキラキラしていて控えめなカナウ君の笑顔がすごく綺麗

2度目の…

カナウ君が笑ったところを見たのはこれで2度目

カナウはニコニコよく笑う子だったのにカナウ君は全然笑わない子でカナウ君が笑ったところを見たのはあの時と今ここで…


それと気がかりなカナウ君の好きな人って?

好きな人がいるっていうの?

いてはいけないって訳じゃないけれどでも…それは、それは私ではないんでしょ?


『好きな子が好きなんだ』


私の知っている人?

それが私になることってないの?

カナウ君は私のことなんとも思ってないの?

私、結構頑張ってアピールしてるつもりなんだよ、これでも

女の子は泣いている

それがとっても共感できてしまって、他人事じゃないように感じる

私も告白したら…そうなるのかな?


ポタッ

涙がこぼれ落ちてその場所が濡れた

あぁ、やだな

自分と重ねてしまうと涙が溢れて止まらない

いくら拭っても溢れてくる涙がそう簡単に止まることはない

拭っても拭っても

壁にもたれ掛かりながら力が抜けてストンと座り込んだ

女の子もしばらく泣きっぱなしでそれでもカナウ君が手を差し出し慰めることはない

ここで手を貸したりなんかしたら諦めがつかなくなる、カナウ君なりのちょっとした
優しさなのかな?

でも、手を差し出すかわりにカナウ君は優しく微笑んだまま言葉を浴びせる


「本当にありがとう…

 勇気を出してくれて、好きなってくれて

 俺も頑張らないとな…

 頑張るきっかけをくれてありがとう」


カナウ君…

辛いけどカナウ君が何かに…誰かに霧中になっていることが少し嬉しかった

本当に好きなんだね

好きな子のことが…私じゃその力を越えられない

大好きの気持ちに勝るものなんてないもの

私が1番分かってる

涙が止まっていることに私は気づいた

必ずしもうまくいく恋なんてないもんね


「ねぇ、重留くん」


立ち去ろうとしたカナウ君を女の子は引き止め涙の溜まった瞳を拭った

そしてパァ、と笑顔を作る

強いなぁ

つらいだろうに苦しいだろうに

それでも笑顔を作る

こんな可愛くていい子が私と同じようにカナウ君に恋をしたんだ


「好きな子って誰?」


笑顔のままそう訪ねる

カナウ君は驚いた顔を浮かべる

そして考える素振りを見せたがフッ、と笑って前に向き直る

そしてひっそりと


「秘密」


そう囁くのだった


女の子は笑ったままで「そっか」と言葉を吐いた

なぜか分かりきっていると言うようなそんな笑顔

えっ?

知っているの?

カナウ君の好きな人

そんなに分りやすいなら私だって分かったっておかしくないのに…

あの子に出来て私に…出来ない?

それって少し差を感じちゃうな


「あっ」


女の子は思い出したように声をあげた

綺麗で透き通るような可愛い声

そして掌と掌を合わせて首をかしげる


「重留くん、もう1つ!

 私もカナウ君って呼んでいいかな?」


え…

ごめん、ごめんね…

それだけは嫌だ、嫌なの

悪いと思うけどその呼び方は私だけが呼んでいる呼び方で特別なの、それだけが私の自慢なんだから

カナウ君…!

届いてこの気持ちだけでも


「ごめん…それも無理」

「どうして?」


了承してもらえると思っていたのだろうか

思わずといったぐあいに訪ねる

でも、案外カナウ君はすぐに答えを出した

泣きたくなるような、もっともっと好きになるような

もうこれ以上の幸せなんてない


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