世界で1番愛する君へ~君に届けるラブソング~
君と出会った中2の春
あいにくの雨の天気のなかだった
毎朝見ているニュース番組の天気予報は悲しいことに当たってしまった
『今日は1日中雨が続くでしょう』
ハキハキとよくとおる声でお天気お姉さんは笑顔を浮かべた
せっかくの始業式だというのにそんな明るい声でそんな残念な予報しなくていいのに…なんて朝から気分はマイナス方向まっしぐら
家を出るのも嫌になるほどなぜか今日はテンションが低かった
理由は、まぁいろいろあるけど…いうならばクラス替えが怖いっていうのと、休み明けで学校が面倒くさいってところかな?
クラス替えが怖いのなんて毎年のことだけど…緊張に押し潰される心臓が痛い
友達出来るかな?ぼっちになったらどうしよう、とか考えすぎて毎年この時期はそれをぼやいてばかりだ
でも、大抵毎年大丈夫でうまいことやっていけるんだけどやっぱり不安になる
長いようで短かった春休み
部活でほとんどつぶれた春休みが明けてしまった
私の所属する部活は野球部やサッカー部、吹奏楽部なんかと比べてしまったらゆるゆるの練習しかしない剣道部だけどそれでも普通に私達にはキツく感じるし面倒くさいのだ
ゆるくないぞ!こっちだって一生懸命やってんだ!…そう思う
時計を見ると時計の針は7時40分を指していた
ありきたりな白い時計は壁にかかっていてカウントダウンを始めるように音を刻むのだった
もうそろそろ出ないといい加減余裕をもってクラス替えの掲示を見ることも出来なくなるだろう
早く行こう
履きすぎて汚れた靴を履き、取り付けられている全身が見える鏡で自分チェックをする
そしてベースの白にエメラルド色の水玉模様が描かれた傘を持って玄関を開けた
あいにくまだ雨は強くてため息を溢した
荷物が少ないといっても傘を持っているのは結構だるい
傘さえも重く感じてしまう思い気分の中、行き飽きた学校への通学路を歩く
度々誰かとすれ違ったが傘のせいで顔が見えない
部活の先輩だったら無視することになっちゃうな…
そう思いながらも私は真っ直ぐ前を見つめ、たまに灰色の空を見上げてそれを繰返しながら学校に辿り着いた
学校には大勢の生徒が雨の中だというのに外に出ていてクラス替えの掲示を見ている
その勢いにのって私もクラス替えの表示を見に行こうと昇降口に向かう
いつもは綺麗な校庭の桜も残念なことに風に吹かれ花びらがその辺を舞っている
きっと今年はすぐに散ってしまうだろう
明日も雨の予報だった気がする
梅雨でもないのに雨が多くて困る
湿気が多いとイライラしてしまうのはなぜだ?
雨が好きな人もいるけど私はなんだか苦手だな
そして汚なく傘についた桜を見つめ私はため息をつく
やっぱり新しい傘なんてさしてくるんじゃなかった
こうなることは分かっていたけどそれでも新しい1年の始まりに昔の汚なくなった傘をさしていくのはどうも気が引けた
せっかくのクラス替えに学年も1つ上がるんだからもっと晴れやかに行きたかった
でも気分もこの灰色の空も晴れてくれることはない
それどころか強くなるいっぽうの雨なのにそんななかでもはしゃぎ声が聞こえる
クラス替えだもんなぁ
気持ちは分からなくはない
私も友達とキャッキャッとはしゃぎたいが雨の中だとそうはいかないものなのである
早く教室に行きたい、とにかく雨が嫌だ
えっと、私のクラスは………3組か…教室どこにあるんだっけ?
そう考えながら教室の割り振りを見て落胆する
げっ、3階じゃん
私の気分はどんどんマイナスになる一方なのかな、今日は……
バシャッ
がっくりと肩を落としていると誰かが勢いよく水溜まりを踏んだようだ、水しぶきがとぶのが見えたが私には届かなかった
「ルナ!」
元気な声でそう呼ばれて振り返る
朝っぱらから…しかもこんな雨だというのになんとテンションの高いこと…
反射的に振り返るとそこにいたのは私の親友であるアヤメだった
「ルナ見ろ!ほれ見ろ!
やっぱり同じクラスになれたじゃん!
賭けは私の勝ちだね」
は?
なんの事を言っているのやら
ぼーっとしながらもう一度クラス替えの掲示を見た
そして苦笑いする私がいた
マジか…ほんとだ、同じクラス…
改めて自分がどれだけぼーっとしていたか思い知らされて溜め息をついた
ていうか、賭けなんてした覚えはないんだけど……
ま、アヤメだからしょうがないか……という意味の分からない解釈をしてからもう一度じっくり、今度は最初から最後までクラス替えの掲示を見た
アヤメの出席番号は私の次の次とすぐ近くに名前があったがぼんやり自分の名前だけ確認していた私は気がつかなかったようだ
「アヤメ相変わらずテンションたっかいねー
こんな雨の日の朝からついて行けないわー」
「そういうルナは今日はやけにテンションひっくいね
どうしたよ?」
心配そうな表情をアヤメは見せたがそんな心配されるような大きな理由はないんだな、これが
だから何となく適当に返事をする
「学校が面倒くさいからに決まってるじゃない
あーあ、春休み短かったなー」
ため息混じりの声を出し私は肩を落とす
アヤメはふーん、といった顔をして私を見つめる
何をそんなに見つめているのか分からないがアヤメはかわいい顔してるなと思った
なにげになかなか……
その性格がもっとおしとやかだったら私なんか相手にされないだろうな
でも部活でのアヤメを見たらどこぞの男子なんかよりも格好いい
さすが剣道部のエースだ
「ねぇ、ルナ…」
若干いつもより声のテンションが低かった
なぜか真顔のアヤメに緊張感が走るようだった
いつも明るいアヤメの性格上少し心配になった
私がなにかおかしいのだろうか
それとも、なにか相談…とか…
アヤメから相談とかされたことないから……どうしたんだろう
私達は同じ剣道部に所属していて中学から知り合った、そして親友と呼べるまでに仲が良くなった
私もアヤメを信頼しているし、私もアヤメに信頼されていると思う
去年は違うクラスだったけど正直今年同じクラスになれたことはすごく嬉しかった
アヤメの前ではそんな風に言えないけど…私はアヤメが思ってる以上にアヤメのことは好きだから
良かった
怖かったクラス替えも今年1年の安泰に心が落ち着いた
そんなアヤメがこんな表情をするなんて…珍しい
「な、なに?」
少し戸惑った声が意識しないで出てきた
アヤメは私から視線をそらさないで長いまばたきをした
まだ言うのかどうか悩んでいるようだ
それほど深刻なものなのか?
だがひとつ深呼吸をしていつもの笑みを浮かべて口を開いた
「何でもないや!
ほれ、早く教室行こー」
いつものアヤメの笑顔が返ってきた
アヤメは先に歩き出し靴箱に向かっていく
その背中を見てアヤメに何があったのか読み取れるほど私はアヤメのことを分かっていなかったのかもしれない
と、傷ついた