世界で1番愛する君へ~君に届けるラブソング~



教室に辿り着いた

3階にある私たちの教室

去年は教室が1階というとてもラッキーなクラスだった私にとってこの道のりはかなりきつかった

が、なんとか上り終えて騒がしい教室に足を踏み入れた


私の席は前から3番目廊下から3番目と教室の真ん中の辺りで後ろの席は男の子だった

ちなみにその後ろの席がアヤメ

アヤメとは手が届くようで届かない微妙な距離

それでもまぁいいか、と思ったのだった

隣の席は嬉しいことに女の子で去年同じクラスだった

そこは安心だ

しかし後ろの席誰だろう

変ななりヤンとかだったら最悪だな

鞄のなかを探りながらそんなことを考えていた

鞄のなかから出したペンケース黒をベースにしたシックな感じのペンケースで1年生の3学期から使い始めた

そのペンケースがなぜか濡れていた

はっ?

取り出したペンケースを見て目を疑った

ペンケースから水が垂れているのだ

ポタリ

おそらく水筒に入れてきた水が漏れたのだろう

制服に落ちてきた雫を見て私は勢いよくガタッと立ち上がり思いっきり振り返った


「ちょっと見てよ、アヤ…メ…」


だが、振り返って目があったのはアヤメではなくいつの間に来たのか後ろの席の男の子だった

音がしなかったから気がつかなかった

その男の子は私をじっくりと見つめているようだ、なぜだか目をそらさない

なんだ?

そう思ったがしばらくして察する

これは見つめられているのではない睨まれているのだと


「え、あの…ごめっ…」


弱々しく声が出た

そう声を出したのとほぼ同時にチャイムがなり先生が現れた

後ろの男の子は視線を私からはずしたので私も前に向き直って席に座った

そしてペンケースを机の上に置いた

後ろの人、怖いなぁ

確かにいきなり馴れ馴れしかったかもしれない

だけどそれは間違いでちゃんと謝った

これ以上関わらないようにしよう


始業式が始まる前にアンケートが配られた

内容は新学期に向けてといったようなそんな感じのもの

だるい、適当でいいや

そう思って手を伸ばした先にはびしょ濡れになったペンケース…

しまった、と思った

さっきのせいでうっかり忘れていたのだ

どうしよう、ハ、ハンカチ

とりあえず拭こうと思った私は制服のポケットに手を入れた

しかし、ハンカチどころかポケットティッシュすら入っていなかった

改めて自分の女子力の低さに落胆しつつも解決策を考える

アンケートと濡れたペンケースを目の前に私は頭を悩ませたが何も思いつかない

静まり返ったこの教室じゃ隣の子にペンを借りることも容易いことではない

諦めよう、そしてため息をついたその時


カランッ

落ちた

何かが落ちたのだ

どうやら後ろの席の人が鉛筆を落としたらしい、床をコロコロと私のところまで転がってきた鉛筆を見つけた

今時、中学生が鉛筆って…そう思ったが私は拾ってあげようと鉛筆に手を伸ばした

しかし、すっ、と現れた手がそれを掴んだ

なんだよ、自分で拾うのか…

拾ってあげようとしたのに……と後ろの席の人への好感度が下がっていく

機嫌を悪くしながらも私は傾けていた体を正面に戻した

後ろの席の男の子はわざわざ椅子から離れてまで鉛筆を拾った

そして立ち上がり自分の席に戻ろうとゆっくりと歩いた

男の子がすれ違うのと同時にコトン、と音がした

なにか…置いた?

そう思って自分の机の端の方を見る

私の机の上にはさっき落ちていたはずの彼の鉛筆があった

は?どうして?

もしかして……?

貸してくれたつもり?

ねぇ、だって私のペンケースが濡れてしまったことを知っているのはあんただけなんだよ?

なんだよ、もう、

助けてくれた、そう解釈しちゃっていいんでしょ?

置いてあった鉛筆に手を伸ばしギュッと握って思わずにやける自分があった


静まり返った教室

君が後ろの席にいる

奇跡、運命、偶然

今、ここで出会えた私と君にどの言葉があてはまるのか……


前言撤回

後ろの席の男の子は案外心が優しいみたい


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