in theクローゼット
「ていうか、チョコレート作ろうって誘っといて、なんでチョコがないんだよ」
「し、仕方がないでしょ! 昨日の夜、寝る前に思いついたんだから」
私の様子に気づいているのかいないのか、稲葉は笑いながら話しかけてくる。
握った稲葉の手が暖かい。
私は少しはなをすする。
二月は一番冷え込む季節だ。
今日は、一段と寒い。
「この辺ってあんまり来ないんだよ。コンビニなんかあったんだな」
「稲葉の家、反対方向だもんね」
握りしめた稲葉の手が温かい。
その温もりがじんわりと伝わって、心臓を捕えた。
「あ、稲葉。こっちだよ」
十字路にさしかかり、私は稲葉の手を引いて右に曲がる。
稲葉の手を引っ張って、ズンズン歩いていく。