in theクローゼット
「なにも、自分で直接渡せっていうじゃないんだよ? 机にこっそり入れちゃうとか、誰かに頼まれたとか言ってさ……」


 なるほど、その手があったか。

 ポン、と心の中で手を叩いた自分もいる。

 けど、そういう問題じゃないだろ。


「意味がない。こんなことして、なんになるんだよ!」


 先がない。

 未来がない。

 なんもない。

 俺の青山への思いは無意味だ。

 チョコレートを渡したところで、なにがどうなるっていうんだ。

 どうにもならないんだよ、どうしようもないんだよ。

 だって青山には、他に好きな女がいるんだから。


「でもっ……!」


 篠塚は泣きそうな顔で、俺のチョコレートを胸に抱く。

 壊さないように優しく、でも力強く。

 俺に、訴えてくる。


「お願い……本当に嫌なら、捨てちゃってもいいから。とにかく今は、受け取って。青山へのチョコレート、稲葉が持っていて。お願い!」


 頭を下げてチョコレートを差し出してくる篠塚は、まるで俺に愛の告白をしているみたいだった。
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