in theクローゼット
「青山。水谷先生が呼んでる」
チョコレートを制服の下に隠して、稲葉が青山を連れ出す。
「こっち」
と言って青山を人気のない方へ誘導するその後を、私は追いかけていた。
見つかったら物凄く怒られるとわかっていても、心配で気になってどうしようもない。
廊下の角や柱の陰に隠れながら後をつけていくと、稲葉は青山を特別教室棟に続く渡り廊下まで連れて行き、そこで足を止めた。
渡り廊下と普通の廊下を仕切る引き戸の陰に隠れ、窓部分から顔をのぞかせる。
渡り廊下の真ん中で二人は立ち止まり、なにやら話をしているようだった。
そして、稲葉が不自然に膨らんだ制服のポケットからあのチョコレートを取り出す。
どんな顔をしてチョコを差し出したのか、その表情はこちらからは見えなかった。
けど、青山の表情はバッチリ見える。
何事か稲葉と話していると思ったら耳まで真っ赤になって、口元が緩んでいるのがわかる。
あれだけチョコレートを貰っておきながらいちいちあんなに照れるなんて、なんだか可愛い。
青山が口を開いて何かを喋っていたけれど、扉で区切られた私の耳には入らない。
せめてこの扉の真ん前で話してくれたら聞こえたかもしれないけど、それだと覗いてるのもバレてしまう。
なんとか声を拾えないか窓ガラスに額を押しつけると、青山が稲葉のチョコレートを受け取った。
「やった……あっ!」
思わず声を上げてしまい、窓ガラスが私の吐息で曇る。
声が聞こえてしまったのか青山が顔を上げて、一瞬目が合った気がした。
「ヤバッ!」
慌てて頭を引っ込め、その場にうずくまる。
続きが気になるけれど、再び覗く勇気はなかった。