in theクローゼット
「でも、圭一は篠塚さんと付き合ってるんじゃなかったの?」
「えっ。いや、篠塚とはただの友達だし……っていうか、俺からのチョコでもねぇし! 渡すように頼まれただけだっつうの!」
ぶんぶんと首を大きく振り、その両方を否定する。
「そっか、そうなんだ」
そうつぶやいた青山はどこかホッとしたように微笑んでいた。
その表情に、胸の奥がざわついた。
「うん、ありがとう……って、その子にも伝えといてくれる?」
「わかった」
胸のざわつきを感じながらも、青山が俺のチョコレートを受け取ってくれたことに胸が熱くなる。
篠塚に半ば騙されるようにして作ったチョコレート。
作ったときに、青山への気持ちなんて入ってなかった。
それでも、青山にこれを渡そうと決意した瞬間に、俺の気持ちがこもってしまった。
本当は俺からだなんて青山は知らない。きっと、別の誰か――女の子からだと思ってる。
それでも、青山は言ってくれた。
まだ見ぬチョコレートの贈り主に、俺に『ありがとう』って。
やばい、泣きそうだ。
俺が顔を下げるのと逆に、青山はチョコレートから視線を上げる。
その視線の先に何があるかなんて、俯いた俺は知らない。
けれど、青山は言った。
「もしかして――」
胸のざわつきが全身に広がる。
「このチョコレートって」
俺は、青山の想い人を知った。
「篠塚さんから?」
青山は、耳まで真っ赤になっていた。
青山は、篠塚が好きなんだ。