in theクローゼット
 心臓が破れそうなぐらい騒いでる。

 男の子にも女の子にも告白されたことなんてなかった。

 これが初めてだった。

 だから、こんなに胸がときめくんだよね?

 そう自分に問いただす。

 私は、青山の想い人を知った。

 きっと、稲葉も渡り廊下で知ってしまったんだ。

 稲葉のことを思うと、心臓が痛みを訴える。


「絶対、俺のこと好きにさせてみせるから」


 青山の手からチョコレートがはなれて、床の上に転がる音を聞いた。

 稲葉のチョコレートが……

 チガウ。

 青山に抱きしめられて、私はそう感じていた。

 青山の腕の中で、私は舞のことを思い出していた。

 舞もじゃれついて抱きついてくることがあった。

 私よりも小さくてふわふわした、可愛い女の子。

 この人は、違う。

 硬く筋肉質な体。

 その力強さに青山が男の人であることを強く感じて、私は急速に冷めていた。

 何故だろう。

 何故、好きになれないんだろう。

 どうして同性を好きになるのかって聞かれるぐらいに困る。

 分からない。

 どうして舞を好きになったのか聞かれたときは、答えられたのに。

 このまま青山と付き合ってしまえば、きっと楽になれる。

 青山はいい人だ。

 スポーツ万能で、剣道部の主将だし部長だし、友達の失礼もちゃんとフォローして、同じ年だとは思えないぐらい大人で紳士で……

 でも、私は青山の体を押し返した。
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