in theクローゼット
「ごめん。私、好きな人いるから」
「圭一じゃなくって?」
あっさりと青山は押し返されて、私から離れた。
「うん。稲葉じゃなくって……私、舞が好きなの」
自然と、舞の名前が出ていた。
「舞って……転校した三笠舞さん?」
青山は明らかな動揺を見せて、ほんの数センチ、遠のいた気がした。
なんでこんなにあっさりと、舞の名前を口に出来たのか、私は私の言葉を不思議に思っていた。
好きな人がいると名前を出して納得してもらいたかったのか、同性愛者だという理由で青山のことを少しでも傷つけずに断りたかったのか……
それとも、青山を試したいのかな。
「三笠さんって、女の子だよね?」
「うん。私は、女の子の三笠舞が好きなの。転校した今も、まだ、好き」
ああ、そうか。
私はまだ舞が好きなんだって、誰かに言うことで確かめたかったんだ。
本人が目の前からいなくなっても、振られてしまっても、恋はそう簡単には終わらない。
そう簡単に終えられる恋じゃなかったんだって。
「好きなの……」
今度ははっきりと青山の目を見て言う。