in theクローゼット
「でもさ、それって舞ちゃんが青山くんのことが好きだったって意味じゃないの?」
「あー、それ! 私も思った」
「なのに、愛ちゃんが舞ちゃんのこと好きだったなんで、勘違いにもほどがあるよね」
「ね〜、レズなんて酷いよ」
耳障りな声がする。
香坂がそんな会話にはさまれておろおろしていた。
「青山くんに振り向いてもらえなかったからって、逆恨みもいいとこだよ」
「こんなことしちゃうような性格だから、青山くんにも嫌われるんだってわかんないのかなぁ〜」
「レズだなんて、篠塚さんはそんな人じゃないのに」
友情を気取って、篠塚を庇っているつもりなのだろうか。
今ここに篠塚本人がいたら、どれだけ傷つくかなんて考えもしないで。
握り締めた手に力が入る。
爪が手の平の柔らかな皮膚を突き破ろうとしているのに、力の抜き方が分からない。
「篠塚は、どうしてる?」
拳を押さえながら、篠塚のことを聞く。
登校しているのは確かだ。こんな落書きをされて、どこかで一人泣いているんだろうか。
「さっき、三年生に呼び出されてたけど……」
「それを、先に言え!」
聞くが早いか、言うが早いか、その場を走り出すのが早いか。
俺が教室の扉に手をかけた後ろで、
『やっぱり、稲葉くんと篠塚さんって付き合ってるんだね』
と、のん気な会話が聞こえてきた。