in theクローゼット
 ニブい俺でも、ただ剣道を応援してくれているわけじゃないことにぐらい気づいていた。

 声を上げてアピールして、差し入れで尽くして……

 私を見て。

 私を好きになって。

 私と付き合って。

 好意は嬉しかったけれど、ただそれだけだった。

 何人もの女の子に告白されて、好きな人がいると振って、離れていって……

 でも、俺は彼女たちが羨ましかった。

 どうしたら俺も告白する勇気が持てるのだろう。

 ダメなのはわかってたからと、彼女たちは泣きながら笑う。

 俺には、当たって砕ける勇気もない。

 篠塚さんが好きだ。

 それは紛れもない事実で、篠塚さんに俺の気持ちに気づいて欲しいと願う。

 俺を好きになってもらいたいと思う。

 でも、なにもしない。

 自ら声をかけることも、何かプレゼントをあげることも、好意を示すことが出来なかった。

 いつも、想像を巡らすだけ。

 きっと、篠塚さんはこんな俺を軽蔑するだろう。

 そのくせ、舞い上がった。

 圭一がチョコレートを持ってきて、二人が付き合ってないことを知って、篠塚さんの影がちらついて、暴走した。

 篠塚さんが三笠さんを好きだと言ったとき、俺はどこかホッとしていた。

 チョコレートが篠塚さんからじゃないとわかったとき、もう失恋は決定していたようなものだ。

 どうせ振られるのなら、そういう理由の方がマシだった。

 女の子が好き。

 だから、男の俺は好きになれない。

 自分の努力じゃどうしようもないことで、俺が悪いわけじゃない。

 プライドは、傷つかなかった。
< 158 / 175 >

この作品をシェア

pagetop