in theクローゼット

「誰か、除光液とか持ってない?」


 教室を見渡しながら声を発する。


「わたし持ってる!」


 クラスメイトの一人が意気込んで手を上げた。


「悪いけど、貸してくれない?」

「いいけど……なんに使うの?」


 ポーチから出てきた小さな除光液のビンを受け取り、蓋を開けて中身をハンカチにこぼす。


「消すんだよ。このままでいいわけがないだろ」


 除光液で濡れたハンカチを篠塚さんの机に滑らせると、汚い言葉が滲み掻き消えていく。

 こんなことになるなんて思わなかった。

 なんて嘘だ。

 振られた腹いせじゃないか。

 振られて傷ついて、慰めてもらいたくて、被害者ぶって、篠塚さんのことをいつもの女の子たちに話した。

 こういう事態になる可能性に気づかないわけないのに、気づかないふりをした。

 もしかしたら本当になにも起きないかもしれないし、それよりも、俺は……

 篠塚さんを好きだなんて、どの口が言えたか。

 他に好きな人がいると、女の子たちを散々袖にしてきた俺なのに。

 自分の醜さを思い知る。
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