in theクローゼット
『こんなことしていいと思ってんの!』
一年のころは別のクラスで、篠塚愛子という人の存在は知らなかった。
だから、校門のところで叫んでいる女の子が誰かも知らなかった。
自分よりも大きな男子たちに相対して、背中に小柄な女の子を庇っている。
女の子は髪留めが取れかけていて、目をこすって泣いているようだった。
からかわれて泣いている友達を庇っているのだとすぐに分かった。
『舞、大丈夫?』
友達を気遣う優しさとその勇気に心惹かれ、気丈な眼差しが美しかった。
そしてなによりも、わずかに震える指先に触れたいと願う。
俺が間に入るよりも早く先生が登場してきて、その場は解散となった。
ほんの一分にも満たない出来事だったけれど、俺の胸に彼女の姿を刻み込むには十分な時間だった。
彼女の名前を知り、移動教室や合同授業のたびに彼女の姿を探した。
進級して同じクラスになったときは飛び上がるほど嬉しくて、学校を今まで以上に好きになる。
これが恋だと、生まれて始めて知った。
そして、今知る。
俺が好きになった、背中に三笠さんを庇う篠塚さんの姿。
あれは、三笠さんに恋する姿だったんだと。
やっと、本当の彼女に恋をした気がした。
殴られた頬がヒリリと痛む。
篠塚さんのために怒る圭一の姿と、俺が好きだと泣きそうな顔で叫ぶ圭一の姿。
あの日の、篠塚さんの姿とダブる。
俺は、まだ篠塚さんのことが好きだ。
でも、これからは分からない。
失恋をした俺は、新しく恋をするかもしれない。
その相手が、また女の子だとは誰にも確定できない。
俺は、圭一を好きになれるのかもしれない。