in theクローゼット
最終章「クローゼット」
side-篠塚愛子
* * *
私の唇に生温かくて湿っぽいものが押し当てられる。
一瞬だけの口付け。
でも、それだけで十分だった。
十分すぎるほど、わかってしまった。
目を開けると、間近に稲葉の顔がある。
目が合って、お互い苦笑い。
「なんか、違うね」
「違うな」
「……どう違う?」
「聞くな!!」
舞にキスしたいと思い、唇が触れ合いそうになった瞬間。
その時とはまったく違うことはわかったけれど、私は未遂だ。
遂行した稲葉に具体的に聞いてみようと思ったけれど、予想通り赤面して答えてくれなかった。
「私たち、友達だよね?」
「当たり前だろ」
今度は、苦笑いじゃない。
「俺たち、両思いだな」
「うん!」
私は稲葉が好き。
でも、これは恋愛感情なんかじゃない。
私は本当にただ稲葉が好きなだけ。
ただそれだけの、両思い。