in theクローゼット
「寒いね〜」
こんなに寒いんじゃ、香坂さんたちが屋上じゃなくてエレベーターの中でお弁当を食べるのも仕方がない。
「でも、いい天気だな」
稲葉が空を仰いで、まぶしそうに目を細める。
「うん。そうだね……」
風は冷たく肌を刺すようだったけれど、雲一つない青空は温かな日差しを惜しみなく与えてくれた。
私も稲葉に習って、その日差しを受け止める。
温かい。
エレベーターの中は寒くはなかったけれど、温かくもなかった。
外に出なければ冷たい風にさらされることもなかったけれど、この温かさを知ることもなかった。
嗚呼、そういうことなんだ。
「篠塚……?」
稲葉が心配そうに声をかけてくる。
私の大切な人。
かけがえのない友人。
私が同性愛者であること、稲葉が同性愛者であること、それを知らなければ私たちはただのクラスメイトのままだった。
だから、そういうことなんだと思う。