in theクローゼット
「いいいいイジメはいかんぞ、篠塚!」
俺が泣いているのを見てそう判断したらしい水谷先生は、慌てて俺と篠塚の間に割って入る。
「誤解です、先生!」
篠塚が目を見開いて否定して、俺も慌てて涙をふき取った。
驚きですっかり引いた涙に、ハンカチで鼻をかんで「違います!」と自分も言う。
それから、ハンカチが篠塚の物であったことを思い出して、洗って返そうとそれをズボンのポケットにねじ込んだ。
「それに、おまえら! ここは生徒使用禁止だぞ」
「それは先生も同じでしょ!」
生徒教員共に使用禁止の来賓用エレベーターでの出来事は、互いに他言無用と言うことでなんとか落ち着いた。
俺が泣いていたおかげであらぬ誤解――イジメもあらぬ誤解だが――を受けずに済んだ。
もともとエレベーターは逢引き用にと篠塚が香坂に教えてもらったものだった。
男女交際。
もしも、俺と篠塚がそんな関係になれたら、全ての悩みが解決するのだろうか……?
「いいから、二人とも早く帰りなさーい!」
水谷先生の怒号が響いた。
俺たち二人は水谷先生によってエレベーターから追い払われ、来た道を戻った。
階段前の角を曲がろうとしたとき、篠塚が急に大声を上げる。
「あーっ! いけない、舞のこと忘れてた。っていうか、鞄も教室置きっぱなしだし……取りに行かなくちゃ」
篠塚は階段の前で立ち止まり、手を振る。
「バイバイ、稲葉。また明日」
「おう」
階段を駆け上がる篠塚を見送り、俺は靴を置きっぱなしにしている出入り口へ向かった。