in theクローゼット

side-篠塚愛子

  * * *


 失敗した。

 舞にキスしようとしたのを稲葉見られただけじゃなくて、稲葉とエレベーターなんかで話し込んでしまった。

 舞のことをほったらかして、稲葉との話に熱中してしまうなんて……私、最悪だ。

 せめて、メールを入れておけばよかったのに。

 そう後悔しながら、私は教室に戻るために階段を駆け上がる。

 もう帰っちゃっただろうか。

 一人っ子の舞の両親は共働きで、夜遅くにならないと帰ってこないってい。

 家の人に迎えに来てもらうこともできなくて、一人で帰ってしまったのかもしれない。

 教室で抱き上げた舞の体は、あんなにも熱かった。

 舞のことが心配でたまらない。

 息を切らしながら教室に飛び込んで、私はほっと息をつく。


「よかった。まだ帰ってない……」


 舞の席には、まだ鞄が置かれている。

 それを確認した私は、息を整えながら舞の机に近づく。

 机の横に掛かった鞄を手に取り、そこへ教科書とかを中身を詰め込んでいく。

 それから自分の机に行って、私も自分の帰る支度をする。

 誰もいない教室の中で、赤い夕日に照らされた私と机たちの影が長く落ちていた。
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