in theクローゼット
「この学校の人なんだよね?」
「うん。あっ、でも誰かは聞かないでね。彼、恥ずかしがりやで……口止めされてるの」
「……男の人、だよね」
「当ったり前じゃない!」
冗談だと思ったらしく、汚れた軍手の代わりに肩でどつかれてしまう。
全身での体当たりに近かったために少しよろめき、目眩がした。
当たり前、か。
「愛ちゃんはクリスマスどうするの?」
「私は……いつも通りかな」
「家族と?」
「そうなると思う」
二人で根っこから引き抜いた草で山を作りながら、寒空の下で白い息を吐いて喋る。
「愛ちゃんってさ、好きな人とかいないの?」
「…………」
「青山くんって、人気あるよね。愛ちゃんも好きだったりする?」
「ううん」
「そっか。まあ、私も青山くんってカッコイイとは思うけど、そういう好きじゃないからね。彼氏一筋!」
私はいつものように笑いながら、その笑顔が凍りついているのを感じていた。
彼氏なんて男性を示す三人称でしかないのに、どうして女性が使うと恋人という意味になってしまうんだろう。
「私に、好きな人なんていないよ……」
「そっか。まあ、クリスマスだからって彼氏つくらなきゃいけないわけじゃないしね」
胸が苦しい。
「私、いったんゴミ捨ててくるね」
「はーい。でも、もうこれだけ抜いたらいいんじゃない? 適当にやっとけばいいって」
用意されていたゴミ袋を広げて、香坂さんがこんもりとした雑草の山をつかんで入れていく。
その後、他のグループの元を回って雑草を回収する。
みんなも草抜きに飽き始めていたみたいで、そのゴミ袋が満杯になったところで掃除は完了ということになった。
「これでオッケーかな?」
満タンになったゴミ袋の口を縛って、持ち上げる。
「一緒に行こうか?」
「軽いから大丈夫」
私は香坂さんの申し出を断って、一人でゴミ捨て場に向かった。