in theクローゼット
「……まあ、座りなよ」
とりあえず稲葉に舞が座っていた席を勧め、舞が残して行った空っぽのパフェの器を店員さんに片づけてもらう。
「ごめん、篠塚」
「別にいよ。気付かなかったんでしょ?」
舞に気づかずに声をかけてしまった不可抗力なら仕方がない。
「稲葉もなんか頼んだら?」
舞が居た席に腰かけた稲葉に、店のメニューを手に取り渡す。
縮こまって椅子に座ってはいるが、稲葉も何か食べようとして店に入ってきたのだから。
「ありがと」
短く無愛想につぶやくように言って受け取ると、ペラリペラリとメニューをめくる。
「すいません。これください」
片手をあげて店員を捕まえると、メニュー名は言わずにメニューを指差して注文した。
かしこまりましたと店員が確認した注文は季節のフルーツのショートケーキだった。
「おまたせしました」
イチゴやパイナップル、グレープフルーツにオレンジ、キウイ。
生クリームに包まれたシンプルなショートケーキの上に、こぼれんばかりのフルーツが盛られている。
パフェじゃなくてこっちでもよかったなと喉を鳴らすが、ケーキを注文した当の本人はどうも浮かない顔だ。