in theクローゼット
「どうか……したの?」
舞と一緒にいた私にうっかり話しかけてしまったというだけで、ここまで落ち込んでいるのはおかしい。
「……俺、勘当されるかも」
「感動?」
「ちげえよ」
俯く稲葉の声は小さくて、一瞬なにを言われたのかわからなかった。
「母さんに、俺が同性と結婚したらどうする? って聞いたら……そんな子に育てた覚えはないって言われた」
フォークを手に取り、ちまちまとケーキを削り口に運ぶ。
こんなにもおいしそうなケーキなのに、稲葉は蝋細工でも食べているような表情だった。
「やっぱ、いけないことなのかな。同性を好きになったって、子供を産めるわけでもないし。……自然の摂理に反してるよな」
どうしてこんな甘いケーキ屋で、こんなにも苦い話をしているんだろう。
それは、私たちが同性愛者だから。
スプーンですくったアイスクリームが、砂のようにジャリっとした。
本当はチョコレートチップなのに、甘く感じない。
稲葉の悩みは、私の悩みでもある。