in theクローゼット
「本当はさぁ、危ないから二人乗りってやっちゃいけないんだよ」
自転車の車輪が回る。
稲葉の肩に両手をついて、自転車の後輪に立って、風を感じる。
髪とスカートの裾が、後方になびいている。
「インテリだけじゃなくって、真面目なんだなぁ」
「危ないのは本当だよ。小学校のとき、舞とこうやって二人乗りしてて、転んでアゴ打って大量出血したんだから!」
風が冷たくて、頬や鼻先が凍える。
あの時の傷跡は、まだかすかに残っていた。
舞に怪我はなかったから、私としては問題ないんだけれど。
「パトカーに注意されたこともあるしね」
クスクスと笑うと、自転車をこぐ稲葉に揺らすなと叱られてしまった。
稲葉の自転車に乗せてもらって一駅分揺られる。
もうすぐ私の家が見えてくるという頃、前方から中学生の集団がやってきた。
もちろんここは私たちの中学の通学路で、ここを通る中学生といったら同じ中学の人達でしかない。
休み中だから大丈夫だと思ってたけど、そういえば休み中も活動している部活もあるんだった。
細長い袋を持った集団。
その荷物の中身を私は知っている。
竹刀だ。
青山や水無瀬が持っているのを何度も見たことがある。
そして今も、その剣道部員たちのなかに二人の姿があった。
隠れる場所なんて、どこにもない。